『致知』連載最終回「人間の究極の願いは幸せになること」


「致知」に連載されていた、村上和雄先生の『生命科学者からのメッセージ』は6月号が最終回になりました。

米国のポジティブ心理学者タル・ベン・シャハー博士の考えをベースに人間の幸せについて考察した今回の寄稿が、先生の最後のメッセージになりました。その内容は遺伝子のスイッチをオンにすることで人生をポジティブに生きることを伝え続けられた先生ご自身の幸福論とも重なるものです。ここに最後のメッセージのダイジェストをご紹介します。

「幸せとは何でしょうか?」

タル・ベン・シャハーはコロンビア大学で「幸せ」を学問として捉え、「ハピネス・スタディ」の教鞭をとっています。シャハーは、幸せな人生とは全人格的なウェルビーイング(よい生き方)であると定義しました。

「五つの視点から見るウェルビーイング」

① スピリチュアルウェルビーイング

自分の強みを活かし、目的のある人生を生きることは幸せと言えますが、シャハーはそれこそスピリチュアルな人生だと述べています

② 身体的ウェルビーイング

「ストレスが溜まっている」よく聞く言葉です。シャハーは健康の鍵はストレスを悪いものと捉えず、ストレスから上手に回復すること、つまりレジリエンス(「適応力」「復活力」)に変えることだと述べています。

③ 知性的ウェルビーイング

好奇心を持ち続けることでイキイキワクワクし、よい遺伝子をオンにできると私は考えています。

④ 人間関係的ウェルビーイング

よい人間関係がウェルビーイングに欠かせないことは多くの研究で分かってきています。それでは、どのようによい人間関係を築けばよいのでしょうか。実は些細な会話にもよい人間関係を築く簡単な方法があります。自分の在りのままの姿勢で、相手に興味を持って傾聴することが、相手に安心と安全を与えます。「聞く」のではなく「聴く」のです。心を傾けてよく聴くことが大事なのです。

⑤ 感情的ウェルビーイング

ネガティブな感情を持つことを許し、「湧き起こる感情は起こった出来事が引き起こしているのではなく、出来事に対する受け止め方が起こしている」と気づくことです。つまり、同じ出来事に遭遇しても、思考を変えることでポジティブにもネガティブにも感情は変わるのです。

「今ある幸せを感じて生きる」

ポジティブ心理学の父マーティン・セリグマンは昨年末、新型コロナウイルスに感染しました。七十八歳の彼は、若い人と比較するとCOVID-19で死ぬ確率は二百二十二倍高いのです。実際に彼が回復までに行った自身のポジティブ心理学の試みとは、「もう死んでもおかしくない」という最悪な状態で、対極の最高な状況を思い浮かべ、現実的な楽しいシナリオを描き、楽観主義を発揮したというものでした。

今回のパンデミックで私たちがやるべきことは、政府やマスコミなどから発信されている悲観的な未来に怯えるのではなく、自分たちにとって最善のシナリオを描くことだと思います。そしてそのことは、考えるだけで楽しくなります。楽しい気持ちは免疫力を高め風邪のウイルスから回復することが研究で明らかにされているのです。