No.9 農業が守る地球環境のほころび


このHPをお読みくださっている方に村上和雄先生の本や講演録のなかから、
いま、お伝えしたいことばをご紹介してまいります。

前回、前々回に引きつづき、食のテーマから、地球環境問題への提言ともいえる
『イネゲノムが明かす「日本人のDNA」』村上和雄  からの抜粋です。

 

第四章 コメと日本人-イネゲノムの解読がもたらすもの

農業が守る地球環境のほころび

昔から「コメづくりより土づくり」といって、肥沃な土をつくる工夫を凝らしてき
ました。けれども、農薬や化学肥料の使い過ぎで、近年は土のパワーが薄れてきた
といわれます。

最近、「大地は呼吸している」ことに気づき、それを証明しようと研究を続けてこ
られた土壌学の権威で、独立行政法人農業環境技術研究所の理事長を務められている
陽捷行(みなみかつゆき)さんと対談をする機会がありました。

陽さんによれば、われわれ地球にすんでいる生き物たちは、地球の四つのファクター
によって「生かされている」といいます。

まず、18センチメートルの土壌。地球の大地を平均すると、土壌(表土)の深さは
18センチメートルにしかなりません。私たちの食糧はそこで生産されているのです。

次に15キロメートルの大気(酸素)です。地球上のあらゆる生物が呼吸をして生かさ
れている酸素の95パーセントは、地球の対流圏の15キロメートルに集中しています。

三つ目は3ミリメートルのオゾン層です。対流圏から45キロメートル上空にオゾン層
があり、それが太陽からの紫外線を遮断しているわけですがその厚さはわずか3ミリ
メートルです。

最後の四つ目は11ミリメートルの水です。飲料に適する水を地球上に広げてみると、
計算上では、わずか11ミリメートルにしかなりません。

ところが、十九世紀から二十世紀にかけて急激に進んだ近代化によって、われわれ
が生きるために必要なこの四つの生命線が、いまではすっかりかき乱され汚されて
しまったと、陽さんはいうのです。

陽さんは、環境を保全するには、サイエンスだけでは十分ではないと考えています。

以前、イタリアで開かれたある会合において、「神道と環境」というテーマで講演
をしたところ、その会に出席していたひとりのカソリック教徒の環境研究者が、次
のようなことを陽さんに語ったのだそうです。

「私たち欧米人は神と契約している。そのために人間中心の考え方からしか自然を
眺められない。しかし、あなた方日本人は、自然と契約して自然と共生している。
だから、私たち欧米人には解決できない環境問題が、あなた方には解決できるかも
しれない」

なるほど日本には上古から、自然と共生し、自然を尊び敬う思想の伝統が、民族の
遺伝子として伝わってきました。「山にも川にも尊いものがおわします」という考
え方は、私たち日本人にとっては、なんら不思議な考え方ではありません。

(中略)

「それでは、なにをすれば世界を救うことになるのですか」と、私が質問を投げか
けたところ、陽さんから、「自然環境を守るためには、農業をやることだ」という
返事が返ってきました。

「地形連鎖(トポシークエンス)」という言葉があります。

たとえば畑と水田と川の三者が、水を通じて一匹の生き物のように有機的につなが
り、働いているという自然の連鎖体系です。

陽さんの話では、土壌は微生物を育てたり、物理的な働きとして、酸素を吸収して炭
酸ガスを出して呼吸していますが、これは人間の健康と同じで、土壌の呼吸に異常が
起きると地球環境が問題になるのだそうです。

たとえば、畑に化学肥料を撒くと亜酸化窒素(N2Oガス)が出ます。しかし、肥料が過
剰になって、N2Oガスを自然が吸収できる容量をオーバーすると、これが川や地下水
に流れ出し、N2Oは成層圏に達して、そこで酸化窒素(NO) となり、このNO による
オゾン層の破壊が始まります。

ところが、途中に水田があると、硝酸は脱窒されて無害の窒素ガス(N2)となり、
その下流はきれいな水になって流れるというのです。

「大地は生きて、呼吸をしている」という陽さんの実感は、地形連鎖を生き物の活動
と重ね合わせてみることにより養われたものでしょう。

「バイオテクノロジーによって、作物を二倍とれるようにするのはいいが、その作物
はどこでつくり、養分はどこからとるのか、そのことをきちんと考えてほしい。
地球には18センチメートルの土壌しかありません。
その土の養分は、数千年かかって自然がつくり上げ、私たちの祖先や親や先輩たちが
手を加えて育ててきたものです。
その土の養分を私たちの世代で使い切ってしまってもいいものかどうか」
と陽さんは重大な疑問を投げかけられました。

問題は、四、五代先の後輩や子孫に対する思いやり、「世代倫理」を心に抱いてバイ
オテクノロジーを推し進めなければならないということでしょう。

輪廻転生の思想によれば、私たちは死んでも、またふたたび別の生命体として生まれ
変わるといいます。身体はすべて元素で構成されていますが、この元素のもとはすべ
て食物からきています。そして、この食物はすべて地球から生まれたものです。した
がって、私たちの身体は地球の元素から構成されているのです。

つまり、元素から見れば、身体は地球からの借り物なのです。

その証として、私たちの身体の元素は死ねば、地球に還ります。生物の死亡率は100
パーセントで、例外はありません。私たちの身体は地球から出て地球に還る。この
循環を繰り返しているに過ぎません。            

そうだとすれば、地球の環境をよくするということは、子孫のためだけではなく、
輪廻転生で生まれ変わるかもしれない、私たち自身の来世の問題にも影響がある
はずです。

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【ホンのひとこと】

18センチメートルの土と11ミリメートルの水。そして3ミリメートルのオゾン層。

地球の土と水と空気。その量は、私の漠然としたイメージよりもはるかにはるか
に少ないものでした。
私たちの身体は間違いなく、その土と水と空気からできています。
何を食べるか、どういうものを選ぶか、意識してみる。
小さな一歩から、気負わずに地球と自分のつながりを考えたいと思いました。

表紙がカワ(・∀・)イイ!! ↓

家の光協会:初版2004年