No.8 米食民族の価値観


今年初めてのHPのUPです。本年もよろしくお願いいたします。

昨年末の記事に引き続き、満田久輝先生のご著書『米、再考 コメは世界の主食です』
(聞き手:村上和雄先生)からの抜粋をご紹介したいと思います。  

村上和雄先生は「心と遺伝子研究会」で「食と心」の研究もされてきました。

食は明らかに人の心身の健康に影響を及ぼします。

私の観察による個人的意見ですが、元気な年配の方は、総じて健啖家でお肉を美味し
く召し上がっているように感じます。いっぽう、わたくし事で恐縮ですが、毎年お正
月明けに体調を崩すことが多く、その原因は年末年始のご馳走の食べすぎではないか、
と思い至るようになりました。

具合が悪いときは何も食べないのが一番よくて、少し回復してきたときにお粥をいた
だくと、日本人でよかったなぁ、としみじみ感じます。お正月明けに七草粥で胃腸を
休める機会がつくられているのは、理に適っていると思います。

今回の抜粋では、満田先生と村上先生が、食と人間の性質について考察されています。
性質には遺伝子の違いが関わってきます。つまり人種によって、もっといえば、ひと
りひとり遺伝子が違うので、自分の身体に適した食べ物と食べ方はそれぞれ違う。だ
から、それを見つけることができれば、健康に幸せに生きられるかもしれません。
それは単純に栄養素に還元されるものではないようです。

また、「歯からみたヒトの食性」についての考察にはとても説得力があります。

四半世紀前の書籍ですが、先生方が危惧された状況は加速して悪化の一途をたどり、
人類は崖っぷちに立っているように感じます。


第二章 コメの栄養

 米食民族の価値観

満田 稲はいくら文句を言われても、稔れば稔るほど、しおらしく頭を垂れている。
その姿を見ると、われわれもやはり、ああしなければいけないなという自制の気持ち
が出てきます。欧米は麦中心の考え方ですけれど、東洋はコメを食べる人間のよさも
あると思っています。

村上 米食民族とその価値観という問題ですね。

私は昭和三〇年ぐらいに満田先生の紹介でオレゴン医科大に留学しました。その時
感じたこと一つは、やはりアメリカ人は肉食人種であるということです。私たちの
食べる肉は紙のように薄いが、彼らはぶ厚いビフテキを食べる。

動物をたくさん食べていた民族と、植物を食糧の主体にした民族は、おそらく考え方
とか生き方においても少し差が出てくる。
たとえば、東洋の思想はコメのような思想、植物とともに生きる思想頭を垂れる思想
です。
一方、動物をたくさん食べる人には、強いものが弱いものに勝っていくという一種の
競争原理がある。もちろんそれはそれで意味があるけれども、行きすぎると 弊害も
出てくるのではないか。アメリカの社会を少し見てそう感じます。

今アメリカは、家庭の崩壊とかエイズの問題とか、いろいろな面で大きな行き詰まり
が来ています。これは全体の考え方、また食べ物も影響があるのではないかと感じる
のですが、いかがでしょうか。

満田 同感です。肉食動物のメリット、デメリットはやはりありますね。

村上 闘争心が強くて、競争心が強くて、ある意味ではいい面でもあるし・・・。

満田 いい面は、たとえば先ほどのFAO、WHO、UNICEFの仕事の時でも、夜十二時
まで会議をしても、朝は七時になったらケロリとしています。それを一週間やられる
と、体力気力で彼らに負けそうになる。私は学生時代、スポーツばかりしていた方で
すから、負けるものかと気力で向かっていく。やはり彼らはステーキを食べているか
ら、体力、エネルギーは十分に持っています。

それがいい方にいっている時はいいけれど、エゴになられたのでは困る。アメリカで
は、お医者さんとかインテリの会議ですと灰皿は一つもない。自分らが肺がんになっ
たら困るから、たばこは吸わない。そうすると、アメリカのたばこ産業は困ることに
なる。で、どこかへ売らなければならないから、日本をねらってきて、日本の婦女子
の喫煙者がどんどん増えてきている。日本の女性は肺がんになってもいいのか。
たばこでもコメでも、人類全体を考えずに、自分らだけがよければいいという思想は
残念ですね。

村上 人類と植物、動物、そういう自然全体を考える、こういう思想は東洋思想の
一つの特徴で
はないかという気がします。

満田 調和、バランス、これが問題です。急いで進歩しようとするところにひずみが
できてくる。自然界の大気は、炭酸ガス〇.〇三%、酸素二一%、あと窒素、そういう
パランスが保たれておりさえすればいいものを、短距離競走みたいに急いでやるから、
今まで自然界の系で保たれていたものがアンバランスになってくる。温暖化の問題と
か、オゾン層の問題とか、みなこれはひずみです。自分の国だけではなしに、隣国の
ことあるいは世界全体のバランスを考えなければいけない。

便利だからというので急いで一斉にやるから、先進国はいいけれど、開発途上国は
困ることになる。やはり調和が大切でしょう。

村上 科学をやっている者のありがたいところは、インターナショナルな土俵がある
ということです。いい研究をして、国際的に発表して、評価をうけて、研究費が入っ
て、さらに研究がよくなるという話を、私も弟子の一人として先生から今までお聞き
してきて、知らず知らずに感じていたようなことを、私も私なりの立場で、やってい
るんですね。それが教育にたずさわっている者のありがたいところです。

 ※日本食見直す「米」国人

日本人の食生活は、最近とくに都市において欧米化が進み、主食と副食物の比率が逆
転し、“勇み足”の心配が出てきている。

外国に出かけることの多い私は、主義として、その国の典型的な食事をとり続けるこ
とにしているが、ある時、その土地の人々のすすめでニューヨーク、ロサンゼルス、
メキシコその他あちこちですし屋を訪ねてみた。お客のほとんどがアメリカ人で盛況
を極めていること、材料が新鮮で、おいしく、しかも安いのに驚いた。エピ、ウニ、
マグロ、カズノコなど、ネタもよいし、シャリもなかなか立派なものである。

なぜ「にぎりずし」を食べるのか、と親しいアメリカの友人たちにたずねると、彼ら
は「美容食、健康食だ」と答えた。獣肉と油で揚げたポテトを頻繁に食べてきた彼ら
が、脂肪の少ない魚介類の味と栄養的メリットに気づき始めたらしい。

かつては、日本人は輸入米を“外米”といって、ばかにしたことがあるが、今の日本の
コメは以前ほどおいしくない。とくに、すし米もアメリカで生産されていることをご
存じだろうか。日本は年々コメの消費量が落ちているが、逆にアメリカではコメを好
む人が増えている。国名が示すようにまさに「米」国になりつつある。脂肪のとりす
ぎを防ぐため、旧来の日本食のよい点を見習い、バランスのとれた摂取法の一つとし
てワサビの効いたにぎりずしの味をおぼえだした外国人もいる。

もともと彼らの食事内容はあまりにも脂肪過多であり、蛋白(P)、脂肪(F)、でんぷん
(C)の比率、すなわち、PFCカロリー比が非常にゆがみ、さまざまな成人病の原因とな
っている。一方、インドをはじめ開発途上国ではでんぷん食品にかたより、P、Fの摂
取量が著しく少なく、栄養失調を起こしている。現在の日本人の栄養摂取量比は理想
的であり、長寿国であることを、世界中の栄養学者が認め、高く評価しているが、油
断をすると直ちに欧米
型になってしまうだろう。

最近、中途半端な栄養学に振り回されている知識人が多い。この食べ物には、コレス
テロールが多いとか、発がん性物質がたくさん含まれているとか、アルカリ性食品の
定義も十分に理解せずに、いろいろと自説を他人に強要している姿を見かける。栄養
学に関心をもっていただくことはありがたいが、少し神経質になりすぎている。

それよりも私は「口を開いて自分の歯を鏡に写してごらんなさい」と、申しあげたい。
門歯が八本、犬歯が四本、臼歯が二〇本、合計三二本そろっているのが永久歯の正常
の姿である。門歯は果物、野菜をかみ切り、犬歯は獣鳥、魚肉を砕き、臼歯は穀類を
咀噌するものと、大ざっぱに考えると、果物、野菜(ミネラル、ビタミン)を二、獣
鳥肉、魚介類(蛋白、脂肪)を一、ご飯、パン、うどん(でんぷん)を五の比率でとり、
牛乳、お茶、お酒などを適当に飲み、偏食せずによくかみ砕き、おいしく笑いの中に
食事をすることが大切である。

永久歯が老化し、だんだん欠けてくるにしたがって蛋白、脂肪、でんぷんの摂取量比
も変わってくる。草食動物には犬歯がなく、臼歯の数は多く鋭いことを静かに観察す
るとき、生物の合目的性に頭が下がる。

必要なものはますます発達し、不要なものは退化するのが世の常である。

集英社:「米、再考 コメは世界の主食です」 1993年発行