村上和雄の本とひととき

NO.14  あなたは「メッセージを受けとる」ことができる人ですか?

今回ご紹介する書籍は、2011年の東日本大震災直後に出版された、
村上和雄著 『奇跡を呼ぶ100万回の祈り』 です。

 タイトル通り、「祈り」がテーマの本です。帯にはダライ・ラマ14世の言葉で
「村上氏の考えは宗教と科学の垣根を超え、すべての読者を調和の世界へと誘う
であろう」
とあります。

 私はこの本の装丁がとても好きです。(カバーデザイン:井上祥邦)
日の出でしょうか、全体にほの暗い、海をおもわせるような情景で、両掌の
に陽の光を包み込んでいる。このひとはきっと自然にむかって祈っているので
はないか、と想像します。

一般に「祈り」はとても宗教的な行為と感じられますが、特定の神や仏への
信仰がなくても、人は自然に「祈る」のではないでしょうか。
ですから、人間が作った宗教ができる前から行っていた、もっと古くて
根源的なものかもしれません。

当時日本に蔓延していた不安で重い空気を思い出します。
そして今は、もっと重たく灰色の空気が世界規模となって、人類の上に覆い
かぶさっているようにも感じます。

今回ご紹介した抜粋の、江戸っ子のライフスタイルが書かれている箇所に、
私は大変惹かれました。

粋で、気っぷがよくて、人情味がある。それでいて、自立していて、お上の
いうことにも納得しなきゃ従わない。彼らは自然と調和し、所有することや
お金儲けに興味がなく、自由で楽しげです。江戸っ子は、現代の私たちが
忘れてしまった、素晴らしい精神性を持っていたのではないでしょうか。

村上先生はいつも、「ピンチはチャンス」とおっしゃっていました。そして、
人類にとって今ほどピンチの時はないかもしれません。だからこそ、すべて
の人にとって
今は最大のチャンスなのだ…、そのように自分自身に言い聞か
せることもまた
「祈り」と言えるかもしれません。

今回のキーワード:
自分の内側からの声や、森羅万象の中にある「メッセージ」を聴く
・江戸の町は究極のエコシティ
・ネガティブな出来事すら「ありがたい」と受け止める

『奇跡を呼ぶ100万回の祈り』 (ソフトバンククリエイティブ株式会社)
からの抜粋(・・・=中略マーク)

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

あなたは「メッセージを受けとる」ことができる人ですか?

よりよく生きたい、いろいろな望みをかなえたい、悩みを乗り越えたい。
そうした祈りの効用を得るために大切なのは、「聴く」という姿勢です。
「聴く」といっても、いわゆる外部の音を聞く聴覚だけのことではあり
ません。
自分の内側からの声や、森羅万象あらゆる現象の中にある「メッ
セージ」を
聴く。それによって、自分の中に確信というものが生まれます。

自分が頭で考えているだけでは得られない、「本当はこうすべきなのだ」
という
強い思いがわき上がってくるのです。「真実の声」に耳を傾ける
ともいえるでしょうか。

しかし、そんな見えないものの声を聴くだなんて、と思われるかもしれ
ません。でも、本当は、意識していないだけで、日々、私たちの命は
そうした声を聴き
いろいろな場面で力を受け取っているのです。

・・・

祈る内容を定め、五感を研ぎ澄まし、自分の内側からも、己をとりまく
あらゆる物ごとからも、真実の声を受け取ることができる姿勢で生きて
いる人にだけ届くメッセージというのがあるのです。

しかしこれは、さほど特別なことでもありません。何かの問題について、
ずっと考え続けていて、別のことをしていたときに「ふと、答えが降っ
てきた」というような経験は大なり小なり、みなさんもあるでしょう。

無意識でありながら、なぜか不思議なことに、自分の内側ではどこから
かメッセージを受け取っている。形に見えないものが、意識という身体
活動上の働きに変換されるわけですから、当然遺伝子もその働きに関わ
っています。

これは、真剣な「祈り」に感応して、命のはたらきを高めるために、
スイッチがONになる遺伝子があるということ、そして、その遺伝子は、
五感を研ぎ澄ま
すことで強く働かせることができるのだということです。

・・・

例えば、これまでの知識や経験だけでは、乗り越えられないような試練と
チャン
スが一体になって訪れたときに、「自分の内側でメッセージを受け
取れる人」「自分の内なる大きな力が出せる人」でなければ、せっかくの
チャンスも逃すことになります。

そして、祈りの効用を得たいのならば、まずは私たちの鈍くなってしまっ
「五感を研ぎ澄ます」ことが重要になってくるのです。

・・・

自然本位で祈り、暮らしていく

個人的な願いはともかく、日本人として、これからの日本の復興のために
祈る
とき、一体何を祈ればいいのか?という疑問を持っている方もいる
ことでしょう。
私は、これからの日本は、地球、そして大自然と調和して
生きることができる
社会を目指すべきであり、それが理想的な姿だと考え
ています。

それは過去の不便な暮らしに戻る、ということではありません。何ごとに
も、
いき過ぎのない、自分たちも心地よく、自然にも余計な負荷がかから
ず災害にも
対応し、あらゆる命が調和し循環していける社会です。

ある意味では、まったく新しい未来社会かもしれません。
そんなものは現実離れし過ぎた、夢物語だと思われるでしょうか。

しかし、発想を変えれば、そうした社会を日本人は、その昔、既に実現
していたのです。

ときは江戸時代。江戸の町は火事がたくさん発生していました。冬場の
空気の乾燥と、風が強いという気象条件に加え、一般の家屋は木と紙で
造られていたため、いったん火の手が上がると一気に燃え広がり、一度
の火災で
かなりの面積が延焼していた、といいます。

この延焼面積を単純に計算すると、およそ270年の江戸時代の間に、江戸
の町は30回以上の消失と再生を繰り返したことになる、といいますから、
日本人の底知れぬ再生へのパワーというものを思い知らされます。

江戸の人々は、「火事が多い」という事実と折り合いをつけて、つまりは
調和して暮らしていたのです。

木と紙で家を造っていたのも、地震が多かったため軽い建材を使っていた
こともありますが、火事のときに建物を倒して延焼を食い止めるという
方法が取られていたこと、そして、焼失してもすぐに再建できるようにと、
簡素な住宅を造っていた、という一面もあります。

また、江戸の庶民は、「火事になったら失ってしまう」ために、必要以上
に物を持たない暮らしをしていたともいわれています。

日常的に使う布団や衣類、食器以外のものは所有せずに、必要に応じて
業者から借りていた。つまり、「自然」に自分たちを「合わせる」という
ライフスタイルを
送っていたのです。

余計なものを所有せず、必要なものは長屋の隣近所で貸し借りし、ものを
買うよりは芝居や習い事、外食などにお金を使う。現代から考えても、
どこか気楽で
うらやましいような暮らしぶりだったのです。

ほかにも、江戸の町は、100万都市から出される生ゴミを肥料として、
江戸を取り囲む周辺の農家にそれを売り、農家はその有機肥料を使った
作物で収入を得
て、ゴミ問題を解決するという「エコシティ」であった
ともいわれています。
町自体がひとつの大きな命として、生きていくため
に自然と調和するように考えられていたのでしょう。

興味深いのは、幕府が「火事で燃えにくい瓦屋根や土蔵造りの建物を
立てるように」と奨励していたのにも関わらず、それがほとんど定着
しなかった、という点
です。

経済的な事情もあったのでしょうが、おそらく、「そんなことをした
ところで、
自然にはかなわない」という人々の思いが、お上の言うこと
すら真に受けない、
という形になって表れたのではないか、そんなふう
にも思えます。

何がなんでも自然に逆らって快適さを優先するために、高気密で密閉
された住まいやオフィスで過ごすのではなく、逆に自然に逆らわず、
自分たちを自然に合わせるスタイルで過ごす。そんな自然本位の逆転の
発想から、新しいアイデアが本当に生まれてくるかもしれません。

・・・

遺伝子のスイッチを「どこでもON」にする生き方

今の日本を取り巻く、さまざまな困難は、私たちがかつて経験したこと
のないようなものかもしれません。しかし、これまで述べてきたように、
この困難と危機は同時に、
日本人が本来持っていた、大自然との調和に
よる恵みを大切にする生き方を取り戻す機会
でもあります。

知識や情報、技術一辺倒で突き進むのではなく、「見えないものの働き」
の重要さを考え、私たちに大きな力を与えてくれる「サムシング・グレート」
の働きを呼び覚ます「祈りと行動」があれば、それは困難ではありません。

私たちは、困難をやりがいに変換できる遺伝子を、誰もが持っています。
それは、言葉の上のことではなく、科学的にも明らかになっています。
そのスイッチをONにするのも、OFFにしてしまうのも私たち次第。

せっかく、ONになった遺伝子のスイッチをOFFにしないためには、
「ダメ」というような、ネガティブな言葉は封印してしまいましょう。

・・・

そして、ネガティブな出来事すら「ありがたい」と受け止めるように
しましょう。

人間には相性もありますから、中には「馬の合わない人」がいるものです。
仕事でしかたなく付き合いがあるけれど、仕事でなければ顔も見たくない、
そんな人もいるでしょう。けれど、そういう人と縁あって接することも、
実は「ありがたい」ことでもあるのです。
その人は、あなたの反面教師としてあなたの人生に現れたのかもしれません。
あなたが人間として成長するために、あなたと接点を持っているのかも
しれません。

私は脳梗塞で倒れましたが、そのことで、生きていることの素晴らしさを
魂で実感できるという経験をしました。病に倒れたものの、同時にとても
「ありがたい」経験をしたと思っています。

 

NO.13 「祈り」の効果はプラシーボ効果では説明できない

今「祈り」の力に注目が集まっていると感じます。
村上先生は筑波大学を退官後、
「笑い」や「ポジティブな心」と「遺伝子」の働きとの
関係について研究され、

晩年は「祈り」によって遺伝子が変わることに対して
科学的エビデンスを得ること、を目標にされていました。

「祈り」という宗教的な言葉と
「遺伝子」というサイエンスの言葉のミスマッチに、
当初私はあまり理解ができませんでした。
スピリチュアルな世界は信じていたのですが、
科学とは別の世界のように思い込んでいたのです。

でも、長年村上先生の研究所で仕事をし、
たくさん村上先生の話を聞いて、本を読むうちに、
その両者は繋がっていること、

言葉を変えれば、
「祈り」という意識的な行為には
「遺伝子」という肉体に影響を及ぼす力があることを、
実感するようになってきたのです。

現在、世界や国内で起きている理不尽なことに対して、
自分の力では何も変えられないと感じることが多いかもしれません。

でも、「祈り」には明らかに形作る力があるのです。
その仕組みはやがて科学的に解明されていくのではないかと思います。

いっぽう、祈りによって自分が望む何かを「引き寄せる」ことにばかり
頑張ることは、また心を窮屈に固くさせてしまうことになるかもしれません。

村上先生は、受容のこころ、無の祈りという、ある意味「サレンダーする」
事もまた、遺伝子オンの秘訣であることを教えて下さっています。

今回のキーワード:

・「祈り」は、いずれは解明される可能性を秘めた科学である
・受容の心、何も望まないという「無の祈り」もまた遺伝子をオンにする方法

「幸せになる遺伝子の使い方」(海竜社)
第5章 今の科学が解明できなくても存在する祈りによる「奇跡」
からの抜粋(文中… 中略マーク)

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

前章にてご紹介した工藤房美さんは、末期のガンで余命1か月と
診断されたにもかかわらず、医師が不思議がるほど回復してしまいました。
このように、治療によるものではなく治ってしまうことを、医学用語では
「自然寛解」と呼んでいます。これは、理由がよくわからないまま、病気の
症状が消えてしまった状態のことです。
こうした不思議な体験をしたガン患者に、「なぜ治ったと思うのか」と聞くと、
もっとも多かった答えは「祈ったから」というものでした。いわば、「祈り」に
よる「治療」が「自然寛解」を起こしたと言えるでしょう。

それでは、この「自然寛解」が起きるか起きないかは、何が決めるのでしょうか。
多くの科学者は、遺伝子が関係していると考えていて、私もそう思っています。
人は、強い願望を持つと祈ります。その結果、その願いは遺伝子に通じ、遺伝子の
スイッチをオンしたのでしょう。歩行も困難なエイズ患者が、仲間とともに祈ったら、
半年で回復したなどの例も、遺伝子がオンしたからにちがいありません。

プラシーボがなぜ、多くの患者に効果的なのか。さまざまな研究の結果、脳内で
エンドルフィンが分泌されることで、痛みを抑えたり、免疫力を活発化させたり、
気分をリラックスさせていることがわかりました。
効果が科学的に立証されたことで、プラシーボ効果については、ほとんどの医療
関係者が認めています。そして、「祈り」についても、プラシーボ効果のひとつと
認識する関係者も多いのです。

ところが、「祈り」の効果には、プラシーボ効果では説明できない部分があります。
それは、前にも紹介した心臓病患者対象の実験で明らかになったように、他人が
祈ってくれた場合も効果があるということです。
あるいは、遠い場所での「祈り」で、患者が祈られているとは知らない「祈り」
でも同じような効果があるということです。

その医師の息子は18歳、悪性の腫瘍と診断されました。若いだけに悪い細胞の働きも
活発で、進行は早く、最先端の治療も効果があがりませんでした。最後の手段とばかり、
父親が試みたのが「祈る」ことでした。
その父親は、自分だけではなく、同僚の医師にも参加してもらって、「ヒーリング集会」
を開催しました。中には、半信半疑の人もいたのでしょうが、父親の必死の姿に、その
集会には60人もの人が参加してくれました。
するとどうでしょう。集会から10日経ったとき、脳腫瘍は消えていたのです。

その奇跡が起きた事実を知れば「何かが働いている」ことを信じることができるでしょう。
そういう意味で、「祈り」は、いずれは解明される可能性を秘めた科学であるともいえます。

絶体絶命のときには何もしないという「無の祈り」
「鉄の一念岩をも通す」という言葉があります。これは、古代、中国の李広という人が、
岩を虎と間違えて弓矢で射たところ、岩を貰いたという故事がもとになっています。
「祈り」の効果も、これに似て、熱く強い思い(一念) を持てば願いは叶うと思いがち
ですが、そうとも言えません。子どもの成績を上げたいという強い思いも、子どもを
萎縮させてしまう可能性があるからです。

私たちは、絶体絶命の状況に追い込まれたとき、なんとか解決して、その状況から逃れたい
と思ってしまいます。しかし、人生には、治療法がない難病にかかるなど、このように、
絶体絶命、万事休すしたときは、「何もしない」という逆説的な「祈り方」もあります。
これは、「祈らない」ということではなく、「強く願うのはやめて、もう何も望みません」
という「祈り」の一種の形です。言ってみれば「無の祈り」と呼べる「祈り」です。

人は、人を励ますとき、気軽に「がんばれ」「もっと強くなれ」という言葉をかけます。
しかし、苦しんでいる人に「がんばれ」は禁句です。「がんばるぞ」と思いすぎると、
本来持っている生命力を生かすことができなくなることがあるのです。
追い詰められてどうにもならないときは、むしろ、のびのびと自分の状況を受け容れる
ことです。「ああそうなんだ」という受容の心は、何も望まない「無の祈り」に通じます。
それがいい遺伝子をオンにするひとつの方法なのではないでしょうか。

No.12   心のスイッチを入れると人生が変わる

村上和雄先生は、私たちの心を捉えて離さない言霊で、
科学と精神世界との繫がりを教えて下さいました。

「サムシング・グレート」

「遺伝子のスイッチオン」

「生命の暗号」

どれも、ひとの生き方を変える、キャッチーなコピーだと思います。

今回は、ドキュメンタリー映画「SWITCH」
(お問い合わせ先 https://iriefumiko.com/movie/)のエッセンスがつまった

『SWITCH』(サンマーク出版)
https://www.sunmark.co.jp/detail.php?csid=3178-2

からの抜粋を紹介させていただきます。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

心のスイッチを入れると人生が変わる

遺伝子の働きを活性化したり、

不活発にしたりする要因には、

私たちの心の状態も大きく関係しており、

「心と遺伝子は相互作用する」と考えられる

「心にもある種のエネルギーがあり、

感動、感謝、喜び、希望、愛情、祈り、

あるいは怒り、不安、悲しみ、恨みなどの

正負合わせた、さまざまな思考や感情、

意識や精神のありようが遺伝子の働きに影響を与えて、

そのスイッチのオン・オフを左右する」

 

心が遺伝子に影響を及ぼすのが事実であるなら

それは私たちの生き方や考え方に

新たな望みを与えてくれるはずです。

なぜなら、心の環境を変えることで、

自分を変え、

人生を変えることができるからです。

 

DNAを自分で変えることはできませんが、

心のありようなら自分で変えられます。

心が変われば、心のみならず体も健康になり、

能力や人間性を向上させて、

明るく幸福な人生を手に入れられる。

こういうことが遺伝子スイッチの働きを通じて、

十分可能になってくるのです。

わが国はいま、「負」や「苦」や「悲」の環境のただ中にあります。

しかし、そうしたマイナス環境はまた、

人の心にポジティブなスイッチを入れる

絶好の機会でもあります

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

YouTubeで「SWITCH」の解説を発信されている方が!

わかりやすい~

「いのちの知恵袋」 (旧チャンネル名 「YouTube健康セミナー」)

▼URL

【村上和雄】誰でもいつからでも運命を変えられる:「SWITCH」を解説【生き方】 – YouTube

No.11「感動」と「笑い」と「夢」が遺伝子をオンにする

村上先生から「遺伝子のスイッチがONになる」お話を20年近く聞き続けてきました。
先生は多くの著名な方々と対談されていて、その中でも繰り返し話題にされています。

約20年前の『致知』に掲載された、横澤彪さんとの対談の「アホ談議」が、とても面白かったので、一部をご紹介させていただきます。今では入手しにくい貴重なものです。
横澤彪さんは当時のテレビ界随一の名プロデューサーで、村上先生の「笑い」の研究も、横澤さんとの出会いによって大きく実を結んだと言えます。
お二人の対談は情意投合といいますか、肝胆相照らすといいますか、読んでいてそんなふうに感じました。

今、お二人はあちらの世界からこちらの世を眺めて、「もっとアホになったらいいんや」と呟いていらっしゃるように思います。

『致知』2003年9月号

対談 村上 和雄 & 横澤 彪「感動と笑いと夢が遺伝子をオンにする」より抜粋

村上 ところが、私が吉本さんと組むといったら、まともな科学者は理解できない。みんな笑うんですよ。笑いと遺伝子というこのミスマッチがおもしろいんですけれどもね。科学の世界でも、ミスマッチからよくおもしろいものが生まれてくるんですから。中にはおもしろいと言ってくれた人もいますが、これは感性の問題なんですね。

横澤 おっしゃる通りです。そういうアホっぽいのってなかなか理解されないんですね。でも普通の人は、笑いと遺伝子の関係なんて、まず考えないじゃないですか。だから先生の発想というのは、端からアホなわけです(笑)。

村上 それはよく分かります(笑)。私はもともとあまり普通じゃないところがありますからね。

・・・・・・・

横澤 今度は私の仮説なんですが(笑)、笑うためにはね、まずアホにならないと笑えないんですよ。年を取って配偶者が亡くなったりすると、しょぼくれるのはだいたい男のほうが多いんですが、これはアホになりきれていないからだと思いますね。つまり男が、過去を引きずって歩いているからなんです。俺はこういう大学を出て、こういう大企業で働いて、こういうポストについて、どうだみたいなのがあるんですが、辞めてしまえばただのおじさんなんですね。だけどそうなりきれない。過去を引きずってずっと歩いてきた人は笑わないですよ、教養が邪魔をして(笑) 。
俺は、こんなくだらないやつらの笑いには絶対に乗らないぞってなるんです。

村上 横澤さんは、アホというのはどういうものだとお考えですか?

横澤 アホというのは、やっばりおもしろいことに無条件で反応するっていう姿勢でしょうね。もう一つちょっと利口ぶって言えば、自分の目を持っているかどうかということですね。

村上 なるほど、自分の目ですか。

横澤 はい。自分なりの価値判断の物差しをきちんと持っているかどうか。それを持っていればアホになれると思うんです。

・・・・・・・

横澤 ですから私は、アホというものをすごく高く評価しているんですよ。アホになるのって大変ですからね。アホは大事にしなければならないと思っています。

村上 世の中を変えるのもアホですしね。私たち科学者も、「あいつアホやなぁ」と言われるくらいユニークなことをやらなければ偉大な発見にはなかなか結びつかない。だから「アホやなぁ」というのはある意味ではほめ言薬なんですね。

横澤 本当にそうです。ユニークな発想は、アホでなければとても出てこないですよね。学習したものというのは、理屈っぽくなるし、どこかに手本とか過去の例があって、そこに基づいて学んでいくわけですからね。で、その通りにやっていると、発見したり遊んだりということがなおざりにされてしまう。だから思いきって遊びのほうから入っていくという切り口を採ると、それまでと違った発想にも結びつきやすいし、もちろん笑いもすごく理解しやすくなるんですけどね。

・・・・・・・

村上 だからアホになれる人は、変に威張っている人よりもはるかに人間味があって素晴らしい。特に、賢ぶってる人間が多いいまの社会の中で、本当にアホになれる人はすごいと思いますよ。

横澤 もっと自分をさらけ出すような生き方をしたらいいんじゃないかと思うんです。一人ひとりがそうなれば、日本もきっと元気になると思いますよ。いま、どうしてこんなに世の中が暗いかというと、周りが嘘つきばっかりだからでしょう。一番嘘をついてるのは国会というところでね、政治家っていうのは一番嘘つきなわけでしょう。その次が官僚で、その次が銀行かなと、みんなもう分かってしまったわけでね。そういう方々が、もうちょっとアホというものについて真剣に考えてもらえるようになれば、世の中も変わってくるんじゃないかと思うんです。

・・・・・・・

横澤彪さんはこの対談の後、大学の先生に就任されます。吉本から一転して「アホを育てに行く
教授」となられました。ものすごく面白い大人気の講義だったそうです。
お二人の、ひとと違う感性をもった「アホ」が新しい時代をつくる、というメッセージは今の時代にこそ必要だと感じます。

No.10 ソウル・メーキング(魂の形成)という課題

このHPをお読みくださっている方に村上和雄先生の本や講演録のなかから、
いま、お伝えしたいことばをご紹介してまいります。

村上和雄先生の数あるご著書の中から、私のオシ本

「人を幸せにする魂と遺伝子の法則」 村上和雄著 致知出版社

からの抜粋です。

ソウル・メーキング(魂の形成)という課題

夏目漱石には『道草』という作品があります。これには晩年の漱石の心境がよく
出ていると思います。その中で、頭では避けようと思っているのに、心の深いと
ころでは歓迎している。そういう人間の矛盾がうまく書かれています。

面白いもので、人間は「あんなこといわなきゃよかったのに」ということをいっ
てしまうものです。河合氏のところへ相談に来られる方の多くも、「なんであん
なバカなことをしたんだろう」といいますが、それを聞いていると、頭では駄目
だと思っていても、その方の「魂」はやりたがっているのではないかと思うこと
がよくあるそうです。

そういうことを背負ってこそ、魂は磨かれるのです。「自己実現」とは自分の好き
なことだけするのではなく、頭では嫌だと思っているのに、魂が「やれ」といって
いることをするようなものだと思います。その辺りのことが『道草』には巧みに書
かれています。

自分の心の奥深くに存在していながら、現代人がその存在に気づいていないもの、
あるいは忘れ去ったもの、それが「魂」なのではないでしょうか。

古代人は、それぞれの文化の中で「魂」の存在を知っていました。それは、もちろ
ん明確には捉え難いものでありましたし、文化の差によって、その有様や名前など
は異なっていました。しかし、古代人は魂の存在を疑うことなく、その存在を前提
とする宇宙観を持っていました。

現代に至って、私たちはもう魂の存在を忘れてしまうほどに、その意識の世界を
拡大したのです。私たちは、かつて多くの人々の魂の座でさえあった月に向かっ
て飛んで行けるのです。その一方で、魂は暗黒部へと追いやられたのではないで
しょうか。河合氏は、「現代人の魂は極度に汚染されている」と考えています。

現代人は、地球だけでなく魂まで汚染しているのです。その結果が、地球規模で
広がっている環境問題であり、また、人間の苦悩として表れているのではないで
しょうか。

そもそも魂とは何でしょうか。それは、私たちの意識をはるかに超えて深層意識
に存在し、明確な言葉では定義できません。私たちは、それについてのファンタ
ジーを語ることにより、その一端を伝えることができます。

たとえば魂とは、人間が死んだとき、あの世に持って行けるものであるともいえ
るのではないでしょうか。人間は、この世で獲得した、地位、名声、財産は一切
あの世に持って行けません。持って行けるものは魂だけであるかもしれない。
そうすると、この世でのソウル・メーキング(魂の形成)も重要な課題となって
くるのです。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

【ホンのひとこと】

村上先生と親交が深く、ユング心理学の第一人者で文化庁長官も歴任された河合
隼雄先生と、お二人に共通の興味と研究テーマであった「魂」について語られて
います。

河合先生は村上先生の「心と遺伝子研究会」の応援団で、あるとき、
「心と遺伝子の相互作用は大変面白いテーマだが、もっと面白いテーマがある。
それは、魂と遺伝子の関係だ」とおっしゃったそうです。

すぐに村上先生は

「それは大変面白いテーマです。しかし、非常に難しい。『心』は心理学という
学問分野があるが、『魂』は学問としてはほとんど認められていない。河合さん、
本気でこのテーマに取り組みたいなら文化庁長官を辞めてください。こんな重要
なテーマは、片手間では取り組めません」

というと、河合先生は

「私は長官(朝刊)ではなく夕刊や」 と笑っておられたそうです。

それから暫くして河合先生は亡くなられ共同研究は実現しませんでしたが、お二
人とも「魂」の存在については確信をもたれていたのではないか、と思います。

不確実で不安な今を生きるうえで、「魂」の視点を持つことは、明るい未来を創
造する力になると思うのです。

No.9 農業が守る地球環境のほころび

このHPをお読みくださっている方に村上和雄先生の本や講演録のなかから、
いま、お伝えしたいことばをご紹介してまいります。

前回、前々回に引きつづき、食のテーマから、地球環境問題への提言ともいえる
『イネゲノムが明かす「日本人のDNA」』村上和雄  からの抜粋です。

 

第四章 コメと日本人-イネゲノムの解読がもたらすもの

農業が守る地球環境のほころび

昔から「コメづくりより土づくり」といって、肥沃な土をつくる工夫を凝らしてき
ました。けれども、農薬や化学肥料の使い過ぎで、近年は土のパワーが薄れてきた
といわれます。

最近、「大地は呼吸している」ことに気づき、それを証明しようと研究を続けてこ
られた土壌学の権威で、独立行政法人農業環境技術研究所の理事長を務められている
陽捷行(みなみかつゆき)さんと対談をする機会がありました。

陽さんによれば、われわれ地球にすんでいる生き物たちは、地球の四つのファクター
によって「生かされている」といいます。

まず、18センチメートルの土壌。地球の大地を平均すると、土壌(表土)の深さは
18センチメートルにしかなりません。私たちの食糧はそこで生産されているのです。

次に15キロメートルの大気(酸素)です。地球上のあらゆる生物が呼吸をして生かさ
れている酸素の95パーセントは、地球の対流圏の15キロメートルに集中しています。

三つ目は3ミリメートルのオゾン層です。対流圏から45キロメートル上空にオゾン層
があり、それが太陽からの紫外線を遮断しているわけですがその厚さはわずか3ミリ
メートルです。

最後の四つ目は11ミリメートルの水です。飲料に適する水を地球上に広げてみると、
計算上では、わずか11ミリメートルにしかなりません。

ところが、十九世紀から二十世紀にかけて急激に進んだ近代化によって、われわれ
が生きるために必要なこの四つの生命線が、いまではすっかりかき乱され汚されて
しまったと、陽さんはいうのです。

陽さんは、環境を保全するには、サイエンスだけでは十分ではないと考えています。

以前、イタリアで開かれたある会合において、「神道と環境」というテーマで講演
をしたところ、その会に出席していたひとりのカソリック教徒の環境研究者が、次
のようなことを陽さんに語ったのだそうです。

「私たち欧米人は神と契約している。そのために人間中心の考え方からしか自然を
眺められない。しかし、あなた方日本人は、自然と契約して自然と共生している。
だから、私たち欧米人には解決できない環境問題が、あなた方には解決できるかも
しれない」

なるほど日本には上古から、自然と共生し、自然を尊び敬う思想の伝統が、民族の
遺伝子として伝わってきました。「山にも川にも尊いものがおわします」という考
え方は、私たち日本人にとっては、なんら不思議な考え方ではありません。

(中略)

「それでは、なにをすれば世界を救うことになるのですか」と、私が質問を投げか
けたところ、陽さんから、「自然環境を守るためには、農業をやることだ」という
返事が返ってきました。

「地形連鎖(トポシークエンス)」という言葉があります。

たとえば畑と水田と川の三者が、水を通じて一匹の生き物のように有機的につなが
り、働いているという自然の連鎖体系です。

陽さんの話では、土壌は微生物を育てたり、物理的な働きとして、酸素を吸収して炭
酸ガスを出して呼吸していますが、これは人間の健康と同じで、土壌の呼吸に異常が
起きると地球環境が問題になるのだそうです。

たとえば、畑に化学肥料を撒くと亜酸化窒素(N2Oガス)が出ます。しかし、肥料が過
剰になって、N2Oガスを自然が吸収できる容量をオーバーすると、これが川や地下水
に流れ出し、N2Oは成層圏に達して、そこで酸化窒素(NO) となり、このNO による
オゾン層の破壊が始まります。

ところが、途中に水田があると、硝酸は脱窒されて無害の窒素ガス(N2)となり、
その下流はきれいな水になって流れるというのです。

「大地は生きて、呼吸をしている」という陽さんの実感は、地形連鎖を生き物の活動
と重ね合わせてみることにより養われたものでしょう。

「バイオテクノロジーによって、作物を二倍とれるようにするのはいいが、その作物
はどこでつくり、養分はどこからとるのか、そのことをきちんと考えてほしい。
地球には18センチメートルの土壌しかありません。
その土の養分は、数千年かかって自然がつくり上げ、私たちの祖先や親や先輩たちが
手を加えて育ててきたものです。
その土の養分を私たちの世代で使い切ってしまってもいいものかどうか」
と陽さんは重大な疑問を投げかけられました。

問題は、四、五代先の後輩や子孫に対する思いやり、「世代倫理」を心に抱いてバイ
オテクノロジーを推し進めなければならないということでしょう。

輪廻転生の思想によれば、私たちは死んでも、またふたたび別の生命体として生まれ
変わるといいます。身体はすべて元素で構成されていますが、この元素のもとはすべ
て食物からきています。そして、この食物はすべて地球から生まれたものです。した
がって、私たちの身体は地球の元素から構成されているのです。

つまり、元素から見れば、身体は地球からの借り物なのです。

その証として、私たちの身体の元素は死ねば、地球に還ります。生物の死亡率は100
パーセントで、例外はありません。私たちの身体は地球から出て地球に還る。この
循環を繰り返しているに過ぎません。            

そうだとすれば、地球の環境をよくするということは、子孫のためだけではなく、
輪廻転生で生まれ変わるかもしれない、私たち自身の来世の問題にも影響がある
はずです。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

【ホンのひとこと】

18センチメートルの土と11ミリメートルの水。そして3ミリメートルのオゾン層。

地球の土と水と空気。その量は、私の漠然としたイメージよりもはるかにはるか
に少ないものでした。
私たちの身体は間違いなく、その土と水と空気からできています。
何を食べるか、どういうものを選ぶか、意識してみる。
小さな一歩から、気負わずに地球と自分のつながりを考えたいと思いました。

表紙がカワ(・∀・)イイ!! ↓

家の光協会:初版2004年

No.8 米食民族の価値観

今年初めてのHPのUPです。本年もよろしくお願いいたします。

昨年末の記事に引き続き、満田久輝先生のご著書『米、再考 コメは世界の主食です』
(聞き手:村上和雄先生)からの抜粋をご紹介したいと思います。  

村上和雄先生は「心と遺伝子研究会」で「食と心」の研究もされてきました。

食は明らかに人の心身の健康に影響を及ぼします。

私の観察による個人的意見ですが、元気な年配の方は、総じて健啖家でお肉を美味し
く召し上がっているように感じます。いっぽう、わたくし事で恐縮ですが、毎年お正
月明けに体調を崩すことが多く、その原因は年末年始のご馳走の食べすぎではないか、
と思い至るようになりました。

具合が悪いときは何も食べないのが一番よくて、少し回復してきたときにお粥をいた
だくと、日本人でよかったなぁ、としみじみ感じます。お正月明けに七草粥で胃腸を
休める機会がつくられているのは、理に適っていると思います。

今回の抜粋では、満田先生と村上先生が、食と人間の性質について考察されています。
性質には遺伝子の違いが関わってきます。つまり人種によって、もっといえば、ひと
りひとり遺伝子が違うので、自分の身体に適した食べ物と食べ方はそれぞれ違う。だ
から、それを見つけることができれば、健康に幸せに生きられるかもしれません。
それは単純に栄養素に還元されるものではないようです。

また、「歯からみたヒトの食性」についての考察にはとても説得力があります。

四半世紀前の書籍ですが、先生方が危惧された状況は加速して悪化の一途をたどり、
人類は崖っぷちに立っているように感じます。


第二章 コメの栄養

 米食民族の価値観

満田 稲はいくら文句を言われても、稔れば稔るほど、しおらしく頭を垂れている。
その姿を見ると、われわれもやはり、ああしなければいけないなという自制の気持ち
が出てきます。欧米は麦中心の考え方ですけれど、東洋はコメを食べる人間のよさも
あると思っています。

村上 米食民族とその価値観という問題ですね。

私は昭和三〇年ぐらいに満田先生の紹介でオレゴン医科大に留学しました。その時
感じたこと一つは、やはりアメリカ人は肉食人種であるということです。私たちの
食べる肉は紙のように薄いが、彼らはぶ厚いビフテキを食べる。

動物をたくさん食べていた民族と、植物を食糧の主体にした民族は、おそらく考え方
とか生き方においても少し差が出てくる。
たとえば、東洋の思想はコメのような思想、植物とともに生きる思想頭を垂れる思想
です。
一方、動物をたくさん食べる人には、強いものが弱いものに勝っていくという一種の
競争原理がある。もちろんそれはそれで意味があるけれども、行きすぎると 弊害も
出てくるのではないか。アメリカの社会を少し見てそう感じます。

今アメリカは、家庭の崩壊とかエイズの問題とか、いろいろな面で大きな行き詰まり
が来ています。これは全体の考え方、また食べ物も影響があるのではないかと感じる
のですが、いかがでしょうか。

満田 同感です。肉食動物のメリット、デメリットはやはりありますね。

村上 闘争心が強くて、競争心が強くて、ある意味ではいい面でもあるし・・・。

満田 いい面は、たとえば先ほどのFAO、WHO、UNICEFの仕事の時でも、夜十二時
まで会議をしても、朝は七時になったらケロリとしています。それを一週間やられる
と、体力気力で彼らに負けそうになる。私は学生時代、スポーツばかりしていた方で
すから、負けるものかと気力で向かっていく。やはり彼らはステーキを食べているか
ら、体力、エネルギーは十分に持っています。

それがいい方にいっている時はいいけれど、エゴになられたのでは困る。アメリカで
は、お医者さんとかインテリの会議ですと灰皿は一つもない。自分らが肺がんになっ
たら困るから、たばこは吸わない。そうすると、アメリカのたばこ産業は困ることに
なる。で、どこかへ売らなければならないから、日本をねらってきて、日本の婦女子
の喫煙者がどんどん増えてきている。日本の女性は肺がんになってもいいのか。
たばこでもコメでも、人類全体を考えずに、自分らだけがよければいいという思想は
残念ですね。

村上 人類と植物、動物、そういう自然全体を考える、こういう思想は東洋思想の
一つの特徴で
はないかという気がします。

満田 調和、バランス、これが問題です。急いで進歩しようとするところにひずみが
できてくる。自然界の大気は、炭酸ガス〇.〇三%、酸素二一%、あと窒素、そういう
パランスが保たれておりさえすればいいものを、短距離競走みたいに急いでやるから、
今まで自然界の系で保たれていたものがアンバランスになってくる。温暖化の問題と
か、オゾン層の問題とか、みなこれはひずみです。自分の国だけではなしに、隣国の
ことあるいは世界全体のバランスを考えなければいけない。

便利だからというので急いで一斉にやるから、先進国はいいけれど、開発途上国は
困ることになる。やはり調和が大切でしょう。

村上 科学をやっている者のありがたいところは、インターナショナルな土俵がある
ということです。いい研究をして、国際的に発表して、評価をうけて、研究費が入っ
て、さらに研究がよくなるという話を、私も弟子の一人として先生から今までお聞き
してきて、知らず知らずに感じていたようなことを、私も私なりの立場で、やってい
るんですね。それが教育にたずさわっている者のありがたいところです。

 ※日本食見直す「米」国人

日本人の食生活は、最近とくに都市において欧米化が進み、主食と副食物の比率が逆
転し、“勇み足”の心配が出てきている。

外国に出かけることの多い私は、主義として、その国の典型的な食事をとり続けるこ
とにしているが、ある時、その土地の人々のすすめでニューヨーク、ロサンゼルス、
メキシコその他あちこちですし屋を訪ねてみた。お客のほとんどがアメリカ人で盛況
を極めていること、材料が新鮮で、おいしく、しかも安いのに驚いた。エピ、ウニ、
マグロ、カズノコなど、ネタもよいし、シャリもなかなか立派なものである。

なぜ「にぎりずし」を食べるのか、と親しいアメリカの友人たちにたずねると、彼ら
は「美容食、健康食だ」と答えた。獣肉と油で揚げたポテトを頻繁に食べてきた彼ら
が、脂肪の少ない魚介類の味と栄養的メリットに気づき始めたらしい。

かつては、日本人は輸入米を“外米”といって、ばかにしたことがあるが、今の日本の
コメは以前ほどおいしくない。とくに、すし米もアメリカで生産されていることをご
存じだろうか。日本は年々コメの消費量が落ちているが、逆にアメリカではコメを好
む人が増えている。国名が示すようにまさに「米」国になりつつある。脂肪のとりす
ぎを防ぐため、旧来の日本食のよい点を見習い、バランスのとれた摂取法の一つとし
てワサビの効いたにぎりずしの味をおぼえだした外国人もいる。

もともと彼らの食事内容はあまりにも脂肪過多であり、蛋白(P)、脂肪(F)、でんぷん
(C)の比率、すなわち、PFCカロリー比が非常にゆがみ、さまざまな成人病の原因とな
っている。一方、インドをはじめ開発途上国ではでんぷん食品にかたより、P、Fの摂
取量が著しく少なく、栄養失調を起こしている。現在の日本人の栄養摂取量比は理想
的であり、長寿国であることを、世界中の栄養学者が認め、高く評価しているが、油
断をすると直ちに欧米
型になってしまうだろう。

最近、中途半端な栄養学に振り回されている知識人が多い。この食べ物には、コレス
テロールが多いとか、発がん性物質がたくさん含まれているとか、アルカリ性食品の
定義も十分に理解せずに、いろいろと自説を他人に強要している姿を見かける。栄養
学に関心をもっていただくことはありがたいが、少し神経質になりすぎている。

それよりも私は「口を開いて自分の歯を鏡に写してごらんなさい」と、申しあげたい。
門歯が八本、犬歯が四本、臼歯が二〇本、合計三二本そろっているのが永久歯の正常
の姿である。門歯は果物、野菜をかみ切り、犬歯は獣鳥、魚肉を砕き、臼歯は穀類を
咀噌するものと、大ざっぱに考えると、果物、野菜(ミネラル、ビタミン)を二、獣
鳥肉、魚介類(蛋白、脂肪)を一、ご飯、パン、うどん(でんぷん)を五の比率でとり、
牛乳、お茶、お酒などを適当に飲み、偏食せずによくかみ砕き、おいしく笑いの中に
食事をすることが大切である。

永久歯が老化し、だんだん欠けてくるにしたがって蛋白、脂肪、でんぷんの摂取量比
も変わってくる。草食動物には犬歯がなく、臼歯の数は多く鋭いことを静かに観察す
るとき、生物の合目的性に頭が下がる。

必要なものはますます発達し、不要なものは退化するのが世の常である。

集英社:「米、再考 コメは世界の主食です」 1993年発行

No.7 「米、再考」コメは世界の主食です

村上和雄先生といえば「笑いと遺伝子」の研究で一般の方に広く知られて
いますが、コメに関する研究でも多くの成果を上げられました。

なかでもイネ・ゲノム解析は、アメリカとの国際競争でしのぎを削る国家
プロジェクトであり、先生にとっては、身も心も削られるほど過酷なもの
であったと聞きました。

しかし、「イネは、イネだけはなんとしても日本人の手で」という強い思い
をもって日本チームがその研究を完遂した、と伺ったとき、米が日本人の魂
と深く結びついていることを感じさせられました。

村上先生は、もともと京都大学の農芸化学のご出身であり、その恩師に
満田久輝先生がいらっしゃいます。

満田先生はビタミンCの定量法、ビタミン強化米、米の貯蔵法など数々の発明や
研究の功績を残され、数多くの受賞歴をお持ちの研究者です。
その道では大変ご高名な科学者ですが、一般の方にはあまり知られていないと
思います。(たいていの科学者はそうです)

最近、満田久輝先生のご著書『「米、再考」コメは世界の主食です』(初版1993年)
を読ませていただき、満田先生の先見の明、ユニークで大局的視点、高潔なお人柄に
魅了されました。(ちなみにこの本の聞き手は筑波大学教授時代の村上和雄先生です)

現在日本の食料自給率は40%を切っています。食料自給率にもいろいろと難しい計算
方法
があって、一概には述べられないのですが、食料の多くを輸入に頼っている日本
において、
コメは100%自給できる、最も大切な食の要といえます。
そして、コメは単なる食料ではなく、
日本人の文化や環境、宗教、生き方にも影響を
与えてきた特別なものであることは間違い
ありません。

特に素晴らしいと感じましたのは、産油国にむかう日本の石油タンカーにコメを積んで
途中の飢餓に苦しむ国にコメを現物で支援し、空になった
タンカーに石油を積んで帰って
くればいい、と書かれているところです。満田先生の発明された炭酸ガス封入密着包装法
ならばコメの品質を落とさずにそれが容易にできるうえ、真の人道支援といえる発想では
ないでしょうか。

本書をご紹介するにあたって、農水省のHPで日本の食糧事情に関する記事を読みました。
(是非、読んでみてください)↓

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/ohanasi01/01-03.html

国という大きな単位での方向性を変えることは容易でない、と痛感いたしますが、
事態がひっ迫しているように感じられる今、食卓にのぼるおいしいごはんが辿って
きた道のりと未来を
、満田先生の提言とともに、考えてみてはいかがでしょうか。

「米、再考 コメは世界の主食です」集英社 からの抜粋です。
・・・本書は下記の提言から始まっています。

 

  提言 

荒れ果てた休耕田の片隅にたたずんで、かつての瑞穂の国が「コメまで買え」と迫られ
ているこの現況に対して、ひと言提言したい。

アメリカ、否、米国からは、永年、小麦、大豆、濃厚飼料をはじめ多くの食糧を購入して
いるわが国の食糧自給率は、今や世界最低である。
まさに、薄氷、バブルの上に一億二千四百万人の日本人が右往左往している感が強い。

今、われわれは、改めてコメを考えるのではなく、稲作、水田を考えなければならない。

環境汚染が地球規模で盛んに論議されている時、わが領土から水田が激減したら、取り返し
のつかない状態になり、日本人の心は、すさみ果てるに違いない。
水田に代わって工場が林立し、団地が増築されたら、人間、動物の呼気の浄化はいったい
どうなるのか。
時に慄然たる思いにかられる。

水田は今さら言うまでもなく、雨水を一定期間、保水してくれる。この水をダムで蓄えよう
としたら、大変な工事が必要である。豪雨の時も、各地に水田があるからこそ、都市は直撃
されずに済む。これらの効能を金銭の多寡で表わすとすれば、莫大な金額になるはずである。

一方、稲の緑は半年近く日本人に心のやすらぎを与えてくれている。
例えば、車窓から
眺めるのどかな農村風景、この精神安定効果は無限大と言ってよい。

安全保障、さらには国土の環境保全の点から、コメの輸入は徹底的に拒否しなければならない。
先年のペルシャ湾の大空襲、イラク、クウェートの激戦、気化爆弾など新兵器の出現の報道を
静視する時、多くの人たちは水、食糧の重要性を改めて再認識されたことと思う。

石油はなくても、人間は生きていける。一滴の飲料水の大切さ、食糧備蓄の緊要性を痛感
した次第である。冷害、台風は周期的に襲ってくるものである。もし、備蓄を怠ってコメが
不足する事態が生じた時は、前例にならって隣国(韓国)にお願いし、緊急輸入する一方、
農家に礼を尽くして休耕田を速急に緩和し、早場米を増産し、その危機を切り抜けることだ。
コメの市場開放は慎重にすべきである。

しかし、万に一つ、最悪の事態になった時は、巨額の外貨の黒字を減らすためにも、最小限
の外米を購入し、日本の船で運び、日本から二〇〇海里の沖合まで搬入すること
である。

そして、日本の国土には上陸させず、輸送中のコメの品質劣化や虫害を防止するため、
炭酸ガス封入密着包装法を行い、ドラム缶または積層フィルム袋に外米をつめる。

それを、タンカーに積みかえ、産油国へ向け出港する。途中、飢餓に苦しんでいる開発
途上国の人々に恵与し、人類福祉に貢献することだ。

国際協力甚金など莫大な国費を海外に援助しているが、笊に水の感なきにしもあらずで、
本当に飢えに苦しんでいる住民の手に届いているかどうか疑わしい。それよりも、現物を
支給して難民を救い、餓死寸前の乳幼児を救済し、国際親善に役立てたい。目的地の産油
国に到着後は、石油を購入して積み込み、日本に持ち帰ることだ。

コメの国、ニッポンであるにもかかわらず、コメについて正しい知識に欠けている人が
意外と多い。本書を通読されて、為政者は一日も早く、健全、合理的な食糧政策を確立され、
英断を以て実行に移してほしいものである。

平成五年二月十一日

満田久輝

集英社:「米、再考」コメは世界の主食です

No.6 幸せの遺伝子 

前回 No.5 生きている。それだけで素晴らしい、でご紹介しました一文のなかにも村上和雄
先生の「笑いと糖尿病実験」の話が出てきましたが、先日、友人の看護師さんが下記動画に
「村上和雄先生のことが紹介されているよ」と教えてくれたので拝見しました。

https://youtu.be/GuckArvQBCo

こちらの動画では薬、とくに風邪薬や抗生剤を多用しがちな日本人に対する警告と、そもそも
「病気が治るということはどういうことか」が、わかりやすく解説されていました。

村上先生は生前、次のようなお話をよくされていました。

「友人の製薬会社の社長は、自身は薬をほとんど飲まないと言っている。それは薬には副作用があることをよく知っているからだ」と。

実は私も以前は頭痛持ちで市販の鎮痛剤をしょっちゅう飲んでいました。我慢するのが嫌だと思っていたのです。でもあるとき、これは身体によくない、と思い、それからはできるだけ服用しないようにしました。気が付けば、いつの間にか頭痛そのものがなくなっていたのです。

今回は、動画の中でご紹介いただいた 「幸せの遺伝子」育鵬社 からの抜粋です。

第三章 遺伝子が喜ぶ生き方 より

⑥ 明るく前向きに生きる

私たちの「心と遺伝子研究会」では、吉本興業に協力していただいて、「笑いによって遺伝子の
スイッチが入ったり切れたりするか」という実験を行いました。

糖尿病の患者さん二十五人に集まっていただき、軽い昼ごはんのあと、大学の先生の講義を聴いていただきました。テーマは「糖尿病のメカニズムについて」です。

ご存知だと思いますが、大学の先生の話というのはあまりおもしろくありません。わかりにくいし、ユーモアにも欠けている。そこで先生には、いつもどおりの講義を四十分してくださいとお願いして、そのあと糖尿病患者さんたちの血糖値を検査しました。

すると、空腹時の血糖値よりも、なんと平均123ミリグラム上がっていたのです。なかには200ミリグラムまで上がった人もいました。このデータが示しているのは、血糖値の高い人は、つまらない講義を聴いてはいけないということです。

そして、翌日、前日と同じ時間に同じ人たちに漫才を聴いてもらいました。吉本興業から参加して
くださったB&Bというコンビがいよいよ舞台に登場するというそのとき、私は、こう耳打ちしたのです。舞台袖で島田洋七、洋八さんに、

「もしこの実検が成功したら、間違いなく糖尿病研究の歴史に残りますよ。笑いと血糖値、笑いと遺伝子の関係には、まだだれも気がついていませんから」

お二人は気合いの入った漫才を披露してくださって、みんなは大笑いしていました。
その直後に血糖値を測ったら、空腹時との差は平均七七ミリグラム。講義のあとより笑ったあとのほうが、四六ミリグラムも低かった。笑いだけで糖尿病患者さんの、食後の血糖値の上昇が大幅に抑えられたのです。

私が、この実験計画を糖尿病の専門医に相談したとき、多くのお医者さんから「そんなアホみたいな実験をまともな医者はやりません」といわれました。つまり、私たちはちょっとアホであったということが、この研究の決め手だったわけですが、実験結果を見て、お医者さんの目の色が変わりました。「これはおもしろい。すぐ発表しましょう」とおっしゃって、翌月にはアメリカの有名な糖尿病の学会誌に論文として掲載され、ロイター通信や、アメリカのマスコミが世界に伝えてくれたのです。

調べてみると、ガン患者に喜劇や落語を見せたところ、免疫力が高いと活性化するNK細胞(ナチュラルキラー細胞)が増えたというデータや、アトピー性皮膚炎の患者に漫才のビデオを一定期間見せたら、症状が軽減したという報告などもあります。こういう実験が進んでいけば、近い将来、薬の代わりにお笑いのDVDを出すような医療機関が出てくるかもしれません。「毎食後、このDVDを見てください」と。

私は、薬はあまりのまないほうがいいと思っています。私の友人で薬屋の社長がいますが、彼はほとんど薬をのみません。なぜなら、薬には副作用があることを、普通の人以上によく知っているからです。副作用のない薬は原則的にないと私は思っています。もし、副作用が全然ない薬があるとしたら、それはまった<効かない薬でしょう。

最近のアメリカの統計によると、アメリカでは年間三十万人が薬の副作用で亡くなってアメリカの死亡率のトップは薬の副作用です。少し前まで十万人といわれていました。ものすごい勢いで増えているのです。日本はその数を発表していませんが、アメリカで起こっていることが、日本で起こっていないわけがない。薬に副作用があるのは、ほほ間違いありません。

中略

眉間にシワを寄せているより、笑顔のほうが自分が気持ちいいし、まわりも気持ちいい。
「笑う門には福来る」といいますし、中国には「一笑一若」という言葉があります。一回笑うと、一つ若返る。西洋では、「笑いは最良の薬」といわれてきました。医者はそんな話を信じていなかったのか、それを科学的に裏づけるデータは極端に不足しています。

しかし、小さなことにくよくよしないで明るく前向きに生きる姿勢が、悪い遺伝子をオフにし、
よい
遺伝子をオンにして、健康や幸福につながっていくことはほぼ間違いのないことです。

楽しいから笑うのではない、笑うから楽しくなるのだともいいます。幸せになる秘訣は、幸せそうにしていることだともいわれます。そういう考え方が、肉体にもいい影響をもたらすのです。

育鵬社:幸せの遺伝子ー「ひらがな言葉」が眠れる力を引き出す!
*現在上画像の単行本は廃番ですが、扶桑社のオンデマンドペーパーバッグ、
    kindle版が発売されています。

No.5 『生きている。それだけで素晴らしい』

このHPをお読みくださっている方に村上和雄先生の本や講演録のなかから、いま、お伝えしたい
ことばをご紹介してまいります。

最近はコロナのことばかりが話題ですが、がんは相変わらず日本人の死亡原因の一位です。
がんの統合医療において、免疫療法などの先駆的治療に取り組まれている阿部博幸先生と
村上和雄先生の共著、「生きている。それだけで素晴らしい」 PHP研究所 からの抜粋です。

第一章 心が幸せを呼ぶ、より

生き方を変えれば末期ガンも治る

村上 日頃の生活の中に笑いを取り入れていければ幸せになれる。笑うためには、感動する、
好きなものを見つけるといったことが大切です。
形だけの笑いだけではなく、心からの笑いが大切ですね。
遺伝子というのは心で動くんですね。笑いと糖尿病の実験で感じたのは、同じ漫才を聞くのでも、さめた気持ちで聞いている人、あまり面白がらない人は血糖値があまり下がらなかったですね。
だから逆につまらない講義でも面白がれば、血糖値は下がるでしょう。

阿部 つまらない講義や面白い漫才が遺伝子のオン/オフを決めるのではなく、それを受け止める心が、オン/オフを左右しているということでしょうね。

村上 心というのはとらえどころがなくて、なかなか科学にはならなかったのですが、遺伝子を
介在させると、科学的に説明ができそうです。
先生が専門でやっておられるガン治療も、気持ちが非常に重要だと思います。先ほど、気持ちの
もち方でガンの経過が違うとおっしゃいましたが、具体的にはどんな例がありますか。
ガンという言葉を聞いて、それだけで滅入ってしまっている人なんか、治りにくいんでしょうね。といって笑っているわけにはいきませんからね。

阿部 そうですね。ガンと聞いて笑えれば一番いいのでしょうが、なかなかそうはいきません。
大体、落ち込んでしまいます。
傾向として、もう頭の中がすべてマイナスになっている人は免疫力が上がりにくいですね。お先
真っ暗だと、ネガティブになっている。いくら「あなたよりもはるかに進行したガンの人がこんなによくなっていますよ」と言っても、私は違う、ダメだと思い込んでいる人は、決して治るという方向にアンテナを向けないですね。
逆に、前向きの人は驚くような結果を出しています。

例えば、私の印象に残っている人では、卵巣ガンの患者さんですが、卵巣ガンというのは、生殖
細胞ですからなかなかやっかいで、かなり治療が難しい。
そのうえ、その女性は、経済的にも余裕がない状態だったので、治療法も限られてきます。
ところが、彼女はたまたまガン保険に入っていました。余命六カ月以内なら保険が下りるという
わけです。

地元の病院では、半年以内だという診断が出されていたことがわかりました。いいのか悪いのか
わかりませんが、彼女は保険金が入ったのをラッキーとばかりに喜んで、その保険金を私の治療法に全部使いたいと言うわけですよ。
先ほども申し上げましたが、私のやっているNK細胞療法というのは、自分の血液の中からNK細胞を取り出して体外で10億個にまで増やし、活性化させてから体内に戻すという治療法です。効果はかなりありますが、費用も決して安くないし、もちろん100パーセント成功ということではないですから、とにかくやってみたいと、目をきらきらさせて言うわけです。

これはいけるかもしれないという感覚はありました。しかし、余命半年以内というのが現状です。それも卵巣ガン。予断は許さない状態であることには変わりありません。ステージでいえば4期ですから。

ところが治療を始めて、宣告された六カ月はとうに過ぎてすっかり元気になった。今では息子の
ために料理屋を開くというので張りきっています。食材の調達に海外まで出かけて行くくらいで、とても余命半年だった人とは思えません。腫瘍マーカーも劇的に下がってきていますしね。心の
もち方一つ、それと目標をもつ、夢をもつということの大切さを教えてくれた患者さんです。

村上 それはすごい話ですね。ふつう、患者さんにしてみれば、できれば手術なんかしたくないし、薬も飲みたくないわけですよ。でも、今の医療は、それ以外のメニューがないから、患者さんも仕方なく受けるしかありません。西洋医学は進歩したと言われているし、実際に進歩していますが、それでもなぜか病気は治らない。医療費が増えるばかりですよね。

何でだろうと思うんだけど、やっぱりこれは心の問題が抜けているからではないかと、笑いと
遺伝子の研究をやっていると、そう考えざるを得ないですね。
心や感情が遺伝子のオン/オフをコントロールして、それが、病気が治るとか治らないに大きな
影響を与えているのだと思いますね。

阿部 ある胃ガンの患者さんも、まず自分がガンであることをしっかりと受け止め、「俺はガン
なんだ」と自分に言い聞かせ、次に「絶対に治すぞ」と心に決めました。さまざまなサプリメント、食餌療法、それから温泉にも行って、徹底的にガン治療をしています。この人には、自分で
治すんだという信念みたいなものを感じました。そうしたらガンの進行がピタッと止まってしまったのです。
陽気で前向きで、まだやることがあるぞという人は、いい結果が出ていますね。

村上 ガンになることで、価値観が変わってくるんでしょうね。生き方やものの見方が変わってくるのでしょう。

環境を変えると眠っている遺伝子をオンにすることができます。 思ってもみなかった能力が発揮されたりするわけですね。私も、アメリカに行って、いろいろな目覚めが起こりました。

でも、基本的に人間というのは、あまり変化したがりません。変化は不安定ですから、できれば
昨日と同じように平穏に今日も過ごしたいと思うわけです。

ガンという病気は、平穏な毎日に投げかけられた大変な波紋です。変化したくなくても変化せざるを得ない出来事です。

遺伝子が目覚めざるを得ない。問題はどんな遺伝子が目覚めるかです。アメリカヘ行ったとき、私はおかげで好ましい遺伝子がオンになって、想像もできなかった研究の発展があった。でも、例えば夏目漱石は、イギリスヘ行ったことでストレスをため、胃を壊してノイローゼ状態になってしまいました。好ましくない遺伝子がオンになったのでしょう。

変化が起こったとき、それをどう受け止めるかで、どの遺伝子がオンになるか決まってくる。ガンになった人が、気持ちのもち方で、その後の経過が違ってくるというのは、そんなことが影響しているのではないかと思いますね。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

【ホンのひとこと】

ガンという病気は、平穏な毎日に投げかけられた大変な波紋です。変化したくなくても変化せざるを得ない出来事です

村上先生は「前向きな心、陽気な心が良い遺伝子のスイッチをONにする」と言い続けてこられま
した。この本では、がんをずっと診てこられた阿部博幸医師との対談で、治癒していく人とはどのような人であるか、が語られています。つまり、生きることに対する向き合い方が、がんの治癒に大きくかかわっているというのです。
科学者と医師というサイエンス分野の二人が、科学や医学を超え、「生きる」ことについて語りあった一冊です。
今、世界に起きている大きな変化を、どのような気持ちで受け止めていくか。それによって未来はつくられる。ひとりの思いは偉大な力を持っていると感じました。

PHP研究所:生きている。それだけで素晴らしい~遺伝子が教える「生命」の秘密~