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No.10 ソウル・メーキング(魂の形成)という課題

このHPをお読みくださっている方に村上和雄先生の本や講演録のなかから、
いま、お伝えしたいことばをご紹介してまいります。

村上和雄先生の数あるご著書の中から、私のオシ本

「人を幸せにする魂と遺伝子の法則」 村上和雄著 致知出版社

からの抜粋です。

ソウル・メーキング(魂の形成)という課題

夏目漱石には『道草』という作品があります。これには晩年の漱石の心境がよく
出ていると思います。その中で、頭では避けようと思っているのに、心の深いと
ころでは歓迎している。そういう人間の矛盾がうまく書かれています。

面白いもので、人間は「あんなこといわなきゃよかったのに」ということをいっ
てしまうものです。河合氏のところへ相談に来られる方の多くも、「なんであん
なバカなことをしたんだろう」といいますが、それを聞いていると、頭では駄目
だと思っていても、その方の「魂」はやりたがっているのではないかと思うこと
がよくあるそうです。

そういうことを背負ってこそ、魂は磨かれるのです。「自己実現」とは自分の好き
なことだけするのではなく、頭では嫌だと思っているのに、魂が「やれ」といって
いることをするようなものだと思います。その辺りのことが『道草』には巧みに書
かれています。

自分の心の奥深くに存在していながら、現代人がその存在に気づいていないもの、
あるいは忘れ去ったもの、それが「魂」なのではないでしょうか。

古代人は、それぞれの文化の中で「魂」の存在を知っていました。それは、もちろ
ん明確には捉え難いものでありましたし、文化の差によって、その有様や名前など
は異なっていました。しかし、古代人は魂の存在を疑うことなく、その存在を前提
とする宇宙観を持っていました。

現代に至って、私たちはもう魂の存在を忘れてしまうほどに、その意識の世界を
拡大したのです。私たちは、かつて多くの人々の魂の座でさえあった月に向かっ
て飛んで行けるのです。その一方で、魂は暗黒部へと追いやられたのではないで
しょうか。河合氏は、「現代人の魂は極度に汚染されている」と考えています。

現代人は、地球だけでなく魂まで汚染しているのです。その結果が、地球規模で
広がっている環境問題であり、また、人間の苦悩として表れているのではないで
しょうか。

そもそも魂とは何でしょうか。それは、私たちの意識をはるかに超えて深層意識
に存在し、明確な言葉では定義できません。私たちは、それについてのファンタ
ジーを語ることにより、その一端を伝えることができます。

たとえば魂とは、人間が死んだとき、あの世に持って行けるものであるともいえ
るのではないでしょうか。人間は、この世で獲得した、地位、名声、財産は一切
あの世に持って行けません。持って行けるものは魂だけであるかもしれない。
そうすると、この世でのソウル・メーキング(魂の形成)も重要な課題となって
くるのです。

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【ホンのひとこと】

村上先生と親交が深く、ユング心理学の第一人者で文化庁長官も歴任された河合
隼雄先生と、お二人に共通の興味と研究テーマであった「魂」について語られて
います。

河合先生は村上先生の「心と遺伝子研究会」の応援団で、あるとき、
「心と遺伝子の相互作用は大変面白いテーマだが、もっと面白いテーマがある。
それは、魂と遺伝子の関係だ」とおっしゃったそうです。

すぐに村上先生は

「それは大変面白いテーマです。しかし、非常に難しい。『心』は心理学という
学問分野があるが、『魂』は学問としてはほとんど認められていない。河合さん、
本気でこのテーマに取り組みたいなら文化庁長官を辞めてください。こんな重要
なテーマは、片手間では取り組めません」

というと、河合先生は

「私は長官(朝刊)ではなく夕刊や」 と笑っておられたそうです。

それから暫くして河合先生は亡くなられ共同研究は実現しませんでしたが、お二
人とも「魂」の存在については確信をもたれていたのではないか、と思います。

不確実で不安な今を生きるうえで、「魂」の視点を持つことは、明るい未来を創
造する力になると思うのです。