こころじ~んブログ

『致知』連載第十八回 特別対談 祈りは人を救う

「致知」連載第十八回・生命科学研究者からのメッセージは世界各地の異常気象に対する危機感を募らせるスヴェンソン会長の兒玉圭司氏と村上和雄が、人類が直面する現状と進むべき道、そして、祈りの力について共に語り合いました。

兒玉「2019年の1月、南半球のオーストラリアで気温が48℃まで上昇し、同じ日に北半球のロシアでは-57℃を記録したそうです。気温差は何と105℃です。要するに熱波と寒波、洪水と干魃という両極端な現象が地球という一つの惑星の中で加速度的に増発している」

「アメリカではこの2019年5,6月で50回以上も竜巻が発生して甚大な被害をもたらしていますし、インドは20年ぶりの大型サイクロンに見舞われて165万人が被害を受けました。」

村上「『地球に優しい』という言葉がありますね。これはとても傲慢な言葉だと私は思うんです。人間のほうが地球に守られて生きているわけですから、「地球に優しい」ではなく「地球が優しい」のです。けれどもその守護もそろそろ限界に近づいていて、人類がここで大きく発想を転換しなければ、「成長の限界」どころか「生存の限界」を迎える局面にあるのではないかと私は思っています。」

「二十世紀は科学技術の発達で人類の生活も随分豊かになりましたけれども、その延長で二十一世紀も突き進めば遠からず限界が来るでしょう。では、私たちはこの二十一世紀をどんな世紀にしていくべきか。私は、「命の世紀」にしていくべきだと思うんです。」

そして、兒玉氏と村上は祈りの力について語り合いました。

兒玉 「私は毎日、宇宙創造主様にお祈りをしているんです。宇宙創造主様というのは、すべての命の根源を私がそうお呼びしているもので、村上先生がおっしゃるサムシング・グレートと同じようなものです。お祈りの前にまず瞑想をするんです。12〜13秒かけて息を吸い、宇宙のエネルギーを体中に取り入れて丹田に溜めていきます。そして息を止め、心の中で、『私は毎日どんどん幸せになっていく。私は毎日どんどん健康になっていく。私は毎日どんどん活力が湧いてくる。心から感謝したありがとう』と唱え、13~15秒かけて体中の老廃物や嫌な思いが足の親指から全部出ていくのをイメージしながら息を吐きます。この呼吸法をしばらく繰り返した後、神棚へ向かって『宇宙創造主様、おはようございます。きょうも一日感謝の心を忘れず、生きる希望に溢れ、夢と感動を皆と共有し、感謝の心を忘れずに行動いたします。ご指導をよろしくお願い申し上げます」

中略…

そして美しい景色をイメージしながら、『地球さん、ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。人類と動植物が住める環境を与えてくださってありがとうございます。地球さん、大好きです。大好きです。大好きです。地球さん、感謝申し上げます。感謝申し上げます。感謝申し上げます』と唱えてお祈りを終えるんです。」

村上 「様々な異常現象も、サムシング・グレートからの試練のメッセージだと私は思うんです。『このままでは人類が滅びることを、早く気づいてください』と。そのメッセージを私たちはしっかり受け止め、人知を超えた存在に真摯に手を合わせる姿勢が求められているのではないかと私は思います。」

兒玉 「『クリティカルマス』というマーケティング用語があります。これはある商品やサービスの利用者が一定数を上回ると、普及率が一気に跳ね上がる現象を表す言葉なんです。いま村上先生がおっしゃったことも、たった一、二万人の人が意識するだけで、地球環境は劇的に改善されるのではないかと私は思います。」

「最後に行き着くところは愛ではないでしょうか。…すべては愛であって、愛こそが地球環境問題の克服に最も重要な意識ではないかと私は思うんです。」

村上 「おっしゃる通り、どの宗教でも共通して説いているのが愛だと私は思います。日本人は愛という言葉がピンとこないかもしれませんから、慈悲と解釈していただいてもいいでしょう。私たちはサムシング・グレートに生かされている存在であることを自覚して、あらゆるものに対して愛を持って接していくことが大事だと思います。」

兒玉 「人々の意識が高まり、愛という意識に人類全体が目覚めれば、地球環境は必ず改善されていくと思います。」

「祈り」はこの危機的な地球の状況を変えるためにひとりひとりが出来ることであり、大きな希望ではないか、お二人の対談からそう、感じました。(スタッフS)

ノーベル生理学・医学賞 本庶佑氏の偉業 『致知』連載第十七回 より

「致知」連載第十七回・生命科学研究者からのメッセージは2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学特別教授・本庶佑氏の研究にスポットを当て、がん免疫療法に寄せる期待と、「心と免疫の関係」について語りました。

本庶佑氏の研究をかいつまんで説明すると…

これまでのがん治療はがん細胞を攻撃することを中心に開発されていました。ところが、本庶氏が発見した免疫療法は、がん細胞そのものを攻撃するのではなく、がん細胞に出現するタンパク質(PD-L1)が、T細胞(病原体に感染した細胞を攻撃し破壊する)のブレーキ(PD-1)を踏み、免疫を抑制していることに注目したのです。

多くのがん細胞の表面には、T細胞にブレーキをかけるタンパク質が発現しており、T細胞ががんを攻撃しようとすると、がん細胞はT細胞の免疫反応にブレーキをかけて、逃れていることが明らかになりました。そこで本庶氏らはがん細胞より先にブレーキにくっつく人工的な抗体をつくり、がん細胞がT細胞のブレーキを踏めなくする方法「免疫チェックポイント阻害剤」を考案しました。そうすることでがん細胞に対するT細胞の免疫作用が抑制されず、がんが免疫反応から逃れることができなくなります。

現在、がん免疫療法では、本庶氏の研究を基に開発された治療薬「オプジーボ」をはじめとする「免疫チェックポイント阻害剤」が用いられていますが、効果が確認されている阻害剤でも、効く患者は二~三割と限定的であり、また、治療効果が表れる患者を事前に調べる方法も確立していません。

2020年4月京都大学大学院医学研究科附属 がん免疫総合研究センターが開設され本庶佑氏はセンター長に就任されました。この研究センターが、がん免疫研究・治療における諸課題を世界に先駆けて解決し、次世代がん免疫研究・治療を発展させることを期待しています。

こころと免疫との密接な関係

「がんが自然に治った」ということをよく聞きます。医師から言われた西洋医学の三大治療法(手術、放射線、抗がん剤)などを受けずに、自然にがん細胞が消失した例を耳にすることがあります。これは本当にそうなのでしょうか。

ここで大事なのは、自然に治るというのは、病気が発覚した時点の状態のまま、生活様式やこころのあり方を何も変えずにそのまま放っておいて治った、ということではありません。病気になった時、なぜ病気になったのか、自分の心の状態や身体の状態をきちんと正確に判断し、本来あるべき状態に戻す努力をした結果なのだと思います。

『がんが自然に治る生き方』の著者ケリー・ターナー氏は、余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちを調査研究し、彼らが共通で実践している九つを抽出しました。

①抜本的に食事を変える②治療法は自分で決める③直感に従う④ハーブとサプリメントの力を借りる⑤抑圧された感情を解き放つ⑥より前向きに生きる⑦周囲の人の支えを受け入れる⑧自分の魂と深く繋がる⑨どうしても生きたい理由を持つ

一つには食事、人間関係をはじめとする自分を取り巻く様々な環境を自ら変えているということです。二つ目は自分自身を内観して、自らの意志で行動するように変化しているということです。

治療者は自分であって、医療者はあくまでも補助。己のなすことは自分で決める。いかに生きるかいかに死すか(死生観)を考えることが大事なのだと思います。

私たちの脳は過去の経験や学習から答えを導こうとします。それは、あくまでも過去が反映しただけにすぎません。まだ真実でないこと(脳が勝手につくりだす未来)を真実と思い込んで恐れたりします。しかし、それよりも深刻なのは、恐れることによって自分がいま持っている力まで忘れてしまうことです。

私たちは生きる力を自分の中に備えています。未来は、自分自身で描けるということを常に忘れず、こころと免疫、そして身体は繋がっているということを信じることが大切なのではないでしょうか。

新刊のご案内「リト」山元加津子、村上和雄 著

村上と親交が深い山元加津子さん(かっこちゃん)が今、湧き上がる思いで書き上げた「リト」というお話。その思いをHPから一部ご紹介します。

なぜ、こんなにも、書きたい書きたい、早く書きたいと思いながら、朝も昼も夜も考え続け、書き続けたのだろうと振り返ると、映画「1/4の奇跡」に出てくる雪絵ちゃんとの約束を果たしたい思い、コロナウィルスに対する大好きな村上和雄先生の「みんなに伝えてね」という約束を守りたいという強い思いと重なっているからかもしれないと思います。

 村上和雄「サムシング・グレート」に感謝して生きる から

同じ一つの大きな命として、もっと多くのものと共生していく責任と喜びを分かち合う。そうした生き方ができれば、おそらく多くの人が、このたった一つしかない地球で生まれ、たった一つの命を与えられ、奇跡的な確率で生きていることをもっと素直に喜び合えるはずです。

村上和雄先生のサムシング・グレートを私なりにファンタジーで表したのが「リト」です。

ご購入は下記URLをご覧ください。

https://eiga377.wixsite.com/monanomori/blank-8

 

広島国際平和会議から発せられた祈り

「致知」連載第十六回・生命科学研究者からのメッセージでは2006年11月に開催された、ノーベル賞受賞者三人による広島国際平和会議を取り上げました。村上は受賞者の一人であるダライ・ラマ法王からの打診によって会議のコーディネーターを務めました。

  村上和雄のメッセージ

なぜ今この会議のことを取り上げたのか?それは、

「今が人類の分水嶺の時であると感じるからに他なりません。もしあのメッセージを無視してしまったら人類は今世紀末には滅亡してしまうかもしれない、それほどの危機感を抱いているからです。」「私はこの会議が広島で行われた意義をあらためて、いや、何度も何度も日本人として考えなければならないと思っているからです。」

  ダライ・ラマ法王のメッセージ 

  「人類には普遍的責任がある」

人間は社会生活を営む生物である以上、個人の幸せは社会に依存している。経済や人口増加や環境問題など、あらゆる事象がグローバル化した「ニュー・リアリティー」(新たな現実)の時代だからこそ、世界全体を‟人類家族”と捉える考え方が重要だ。その意味で、人類一人ひとりが「普遍的責任」を負っているのである。

平和の対極にある戦争では、相手を敵と見なすが、敵を害することは自分を害することにつながる。利己的な態度を改め、相手の「痛み」を想像しなければならない。すべての人間は他者を思いやる心をもつ。すべての人間は母親から生まれる。そして、母親から無私の愛情を注がれて育つ。他者への思いやりの心は、母親によって育まれるのだ。

   ベティ・ウィリアムズ氏のメッセージ 

  「母性のもつ強さ、親心こそ世界を変える力」

平和とは自分からはじまるものです。人間ならば誰しも、時には暴力的になってしまうものでしょうし、特に私はそうです。子どもたちが傷つけられるのを見ると、とても腹が立ちます。しかしそこで私は毎瞬間、自分と格闘します。怒りを破壊的な行為へと向けるのではなく、ポジティブな感情へと転換しようとしています。怒りは意味があることのために使わなくてはなりません。また、平和とは家庭から始まるものです。私は世界平和を訴えるためには、それに先立って自己の平和と家庭の平和を実現しなければならないと考えております。

息子のポールがある年齢になった頃、人からよく 「男の子なのだから泣いてはいけない」と言われていました。つまり、泣くのは男らしくないというのです。よくも子どもに向かってこんなことが言えたものです。一体どうして男の子は泣いてはいけなくて、女の子は泣いても構わないのでしょうか。このような決まりは古めかしく、馬鹿げています。ですから私は息子にこう言い続けてきました。「男だって涙を流すものよ。人に涙を見られるのを恐れてはいけません。真の男は涙を流すのだから」と。

女性のみなさま、ご家庭で自分の息子をどのように扱うのかというのは大切なことです。調和の取れた男性に育てるためには、感情も含めてあらゆる感性を育成しなくてはなりません特に男の子にとって、感情を表に出すことが許されるということは非常に大切だと思います。

  デズモンド・ツツ大主教のメッセージ

  「赦す」ということ

アパルトヘイト政策が終わりを告げたとき、多くの人々は、残虐な報復行為が起こるのではないかと考えた。しかし、それは起こらなかった。むしろ、和解のための委員会が開かれた。それは、長い間虐げられてきた黒人が、仲介者である国連の助けを借りながら、寛大な精神をもって赦そうとしたからだ。

たとえば、自分の身に何か悪いことが起こったとき、人はそれを忘れてしまおうとする。しかし、それは潜在意識に入り込み、あるとき突然“化け物” となって現れることがある。不幸な出来事に対する、もう一つの方法がある。それは現実を直視することだ。感情的には非常な困難が伴うが、南アフリカでは、まさにそれが行われている。人は変わる。善良な人間になることができる。きのうの敵でも、あすは友になれる。これが南アフリカで起こっている。ならば、世界中のどこでも可能なはずだ。私たちは共に生きるために、人類という一つの家族になるために創造されたのだから。そうでなければ、この地球上で生きていくことはできない。ほかに選択肢はない- 。

 

いま、村上は考える。「世界の平和のために、俯瞰した立場から大いなる働きをできる国があるとしたら、それは日本しかないのではないだろうか」と。

『致知』連載第十二回「笑い」から始まる新たな挑戦

「心と遺伝子研究会」の端緒となった研究テーマが「笑い」です。

  • 20世紀の偉大な哲学者ベルクソンは、フランスの喜劇や道化役者の芸から学んで「笑いについて」という論文で、ユーモアの社会的な意味づけをした。それは「笑い」には秘めたる力があることを見抜いていたからではないか。
  • 天照大御神が天岩戸に御隠れになった時、八百万の神々が一堂に会し、女神であるアメノウズメがストリップさながらに踊り狂ったことで、それを見た神々の大きな笑い声が高天原にまで届いた。不思議に思った天照大御神が自ら天岩戸の扉を開けたことで、再び世の中に光が戻ったという神話がある。日本においても「笑い」は特別な力を持つものだ。
  • いっぽう、現代脳科学においても「笑い」は、ある一定の行為を行う動機づけとして働くことがわかっている。「笑い」は人をより一層前向きにさせるだけでなく、モチベーションアップにも一役買っていることが明らかになった。
  • 神経伝達物質として、「脳内麻薬」と呼ばれるβベータ-エンドルフィンは笑いによっても分泌される。つまり、苦痛や不安といったものを和らげる上でも、笑いは重要な役割を果たしている。

ヨーロッパには「笑いは副作用のない薬」という諺ことわざがあるようですが、こうした様々な笑いの効用を知るにつけ、まさに言い得て妙と言えるでしょう。

『致知』連載第八回「伊勢神宮に見る日本の「食」の原点」

『致知』連載中の村上和雄「生命科学研究者からのメッセージ」。

二月号のテーマは「伊勢神宮に見る日本の「食」の原点」

 

長い研究人生において、二度にわたるコメの研究を通じて日本の食の原点と向き合ってきた村上和雄。その経験は伊勢神宮を訪れた時の感動によってさらなる学びへと繋がりました。

『・・・古来、日本人は食べ物について、自分たちの力で獲得したのではなく、神からの恵みとして与えられたものと考えてきました。神話の世界では、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が天孫降臨する際に、天照大御神から「稲穂の力で日本の国を平和に治めなさい」と告げられています。これは稲穂が最も尊い食べ物であることを示しており、日本はこの教え通りにコメを主食とすることで、今日に至るまで続いてきたと言えるでしょう。

一方、瓊瓊杵尊に稲穂を授けた天照大御神が祀られているのが、日本人の魂の故郷として信仰されてきた伊勢神宮です。伊勢神宮といえば、日本人の誰もが知っている有名な神社ですが、その信仰の原点が「食」にあることは、意外と知られていないようです。

伊勢神宮には、天照大御神を祀った皇大神宮(内宮)と豊受大御神を祀った豊受大神宮(外宮)とを中心に、百二十五もの神社が集まっています。その中にあって、外宮に祀られている豊受大御神は天照大御神の食事を司る神様であることから、外宮は「神様の台所」と呼ばれてきました。伊勢神宮では年間大小数百回もの祭が行われていますが、そのほとんどが「食」に関する神事なのです。

そして、神々の食卓を彩る食材は、すべてが地元の豊かな自然から取れた米、野菜に魚でまさに理想的な日本食と言えるでしょう。伊勢神宮では完全な自給自足、地産消のシステムを保ち続けてきました。こうした取り組みは、最も古い日本の食を伝えながらも、一方では未来へ続くサステナブル(持続可能)な食のあり方も示していると言えるかもしれません。伊勢周辺には古くから、「おかげさま」という言葉が根づいてきました。四季が巡る中で、ある時期が訪れると作物が実り、我われはその恵みを受け、ご飯が食べられる。そうやって健やかに平和に過ごせることを神様に感謝する心、それこそが「おかげさま」なのです。それは神への感謝であって、広くは大自然への感謝の気持ちが込められているのです。

イネは、日本人の精神や生活の根源となる特別な存在であり続けてきました。また、「イネ」という言葉のうち、「イ」は命、「ネ」は根っこ、であると言われ、イネにも魂があるとして「稲魂」という言葉もあるそうです。こうしたことから、イネによって培われてきたものが、いつしか私たち日本人の遺伝子にも組み込まれていったのかもしれません。私が日本の威信を賭けて「イネ全遺伝子解読プロジェクト」に全力投球できたのも、そういう目に見えない力に後押しされていたのではないかと、思うことがあるのです・・・』

コメは日本人にとって単なる食材ではなく、心・遺伝子・魂に繋がっているもの。でも、 日本人のコメの消費量は年々減少し、一方サプリメント市場はどんどん拡大しています。伊勢神宮では毎日朝夕、神様に食事をお供えします。その献立は、ご飯、水、塩が基本で、鰹節、魚、昆布、野菜や果物、清酒といったシンプルなものだそうです。こういう食事こそ日本人にとっては理想的な健康食ではないかと思いました。

『致知』連載第七回「遺伝子組み換え技術はどうあるべきかを考える」

『致知』連載中の村上和雄「生命科学研究者からのメッセージ」。一月号のテーマは「遺伝子組み換え技術はどうあるべきかを考える」です。

前回、イネ全遺伝子解読プロジェクトの話が述べられました。これを読んだ方の中には、その解読された遺伝子情報はどのように使われたのだろう、と思う方もいらっしゃるでしょう。その成果は公開され、管理は農水省が行っていました。ところが、2018年、日本の種を守ってきた「種子法」という法律が突然廃止されました。一般人にはなじみのない法律ですが、その「種子法」が日本の美味しいコメを守ってきたといえます。イネ遺伝子プロジェクトは日本人の魂であるイネの遺伝子を日本人の手で解読する、という思いでなされたものであったのに、ここに来て、国は食糧の基本であるコメ、ムギ、ダイズの種子市場を民間企業に任せることにしてしまったのです。そしてタネの巨大な市場はモンサントをはじめとする外国企業の寡占状態です。

いっぽう遺伝子組み換え作物は日本では消費者に嫌われて広まっていないかのようですが、実際は加工に使われる大豆や小麦などはほとんど輸入品であり、遺伝子組み換え作物です。消費者は知らないうちにそれらを食べています。遺伝子組み換えでない豆腐や納豆だけ選んでいても、食糧自給率の低い日本ではそれらを全く食べずに生きていくのはほぼ不可能といえます。ここには、大きなごまかしがあるといえます。遺伝子組み換え技術は、ひとが優良な品種を作ってきたその長い歳月を一気に短縮してしまうことができる夢の技術です。そこに村上の思いもありました。しかし、自然を短い時間で操作することに危険を感じている人も多い。そして、どこまでが良くてどこからが行き過ぎなのか、その判断基準がなく、技術が発明されれば歯止めをかけるものがない、といえます。

写真:大豆畑。アメリカから輸入されている大豆の9割が遺伝子組み換え作物だという

私達は大変難しい時代に生きています。一人一人がこの国の将来を考えていかなければいけない時代です。今回のメッセージを読んで、自分たちが食べるものについて何も知ろうとせず、政治家、科学者、大企業に任せて、自分たちで選択することをしなくなれば、日本や世界は後戻りできない状況になっていく危険をはらんでいる、そのように感じました。

 

『致知』連載第六回「日本の威信をかけた『イネ全遺伝子解読プロジェクト』」

『致知』連載中の村上和雄「生命科学研究者からのメッセージ」。              十二月号のテーマは「日本の威信をかけた『イネ全遺伝子解読プロジェクト』」

二〇〇〇年四月、村上は新聞のある記事に読んで大変なショックを受けます。そこには、アメリカの、ヒト・ゲノム解読で名を挙げたセレラ・ジェノミクスという会社が、「ヒト」に続いて「イネ」の遺伝子暗号の解読に乗り出した、とかいてありました。

村上は、その前年に筑波大学を定年退官していたのですが、「十八歳で大学に入学し、やっと六十三歳で卒業できた」「いよいよこれから社会人としての人生が始まるんだ」という期待に、胸膨らませていたといいます。まさに人生これからだ!と思っていた矢先に、突如として舞い降りてきたのが、「イネの全遺伝子暗号の解読」だったのです。

日本人の身体と精神には稲や米からもらった生命が受け継がれている、日本人のアイデンティティや日本文化を守るためにも、日本人の手によってイネの全遺伝子暗号を解読するのが筋ではないか、という思いが村上の心を揺さぶったのでした。しかし、村上は既に大学を退官していたので、研究の拠点はありません。そこで財団法人国際科学振興財団にバイオ研究所を設立しました。そして、政治家のところに研究予算獲得のため陳情に行ったと言います。ある政治家は、村上の話を聞いたうえで「予算を付ければアメリカに勝てるのか」と鋭く質問してきました。正直当時の状況からは負ける確率の方が大きかった。でも村上はとっさに「勝てます」と断言しました。この決心こそがあらゆることを動かしたのではないか、そう思えてなりません。

そして、村上の研究人生で、最も厳しいものとなったプロジェクトが始まります。心労で8キロも体重が減ったと言います。しかし、ついに2003年3月、世界に先駆けてイネの全遺伝子暗号の解読に成功したのです。その成果は科学雑誌「サイエンス」でも発表されます。その後、3万2千個のイネ遺伝子暗号は農水省が一括管理することになりました。日本はこれらを特許で独占せず、すべて公開したのです。

村上は、「神話から続く稲作の文化が日本人の遺伝子にしっかりと組み込まれているような気がしてならないでのす。私がイネの全遺伝子暗号解読に真剣になれたのも、そういった目に見えないものが後押ししてくれたように思うからです」といいます。プロジェクト終了後、伊勢神宮へ参拝した村上は、改めて稲作と日本の国づくりや日本文化との深い関係について思いを馳せたといいます。村上はこの研究を意気に感じ、筑波大学の退職金を全てイネ研究に寄付したそうです。その私心がないところに、天が助けてくれたに違いない、そう思えてなりません。

『致知』連載第五回「ヒト・レニン全遺伝子暗号解読の軌跡」

『致知』連載中の村上和雄「生命科学研究者からのメッセージ」。                                                     十一月号のテーマは「ヒト・レニン全遺伝子暗号解読の軌跡」です。

新生・筑波大学を国際的な大学にするため、三年・千日と日を区切って、研究に邁進した村上和雄。そこからは、白鳥哲監督制作の映画「祈り」でも描かれた、天が味方してくれたとしか言えない、ドラマティックな出来事が起こります。脳内レニンの正体を解明するために、牛の脳下垂体からレニンを取りだすことを考えた村上は、その材料調達のために筑波から東京・芝浦の食肉センターに通い続けます。そして、断られても断られても、牛の脳下垂体を譲ってもらえるよう頼み続けました。とうとう根負けした食肉センターの責任者の方は「大学の先生にこれだけ頭を下げられたんじゃ、断れねぇや」と言ってくださったそうです。それからは、研究室の全員で、毎日毎日、冷凍された栗の渋皮を剥くような難しくも単調極まりない脳下垂体の皮剥き作業に取り組みました。それはおそらく多くの人が抱く研究のイメージからは、かけ離れた単純な肉体労働だったと思います。でも、村上は研究室のメンバーに「これさえできれば世界的な研究ができる」と言って励まし続けました。そして遂に牛三万五千頭分の脳下垂体から0.5ミリグラムのレニン純品を取り出すことに成功したのです。この成果を1981年のドイツ・ハイデルベルグで開かれた国際高血圧学会で発表した村上には、万雷の拍手喝采と「ドクター三万五千頭」というニックネームが送られたのです。

しかし村上の挑戦はまだまだ続きます。新しい遺伝子工学の手法で、ヒト・レニンの大量製造と、レニンの基本構造の解明というテーマに取り組んだのです。そこではパスツール研究所やハーバード大学という横綱級がライバルでした。さすがの村上も諦め半ばだった時に、学会で訪れたドイツ・ハイデルベルグの学生街のカフェで、旧知の間柄であった京都大学教授、中西重忠先生とバッタリ出会います。そこで村上は研究の窮状を語ったところ、中西先生は研究室を上げて全面的に協力することを申し出てくれたのです。そして遂に奇跡は起こり、ライバルを抜き去って、世界で初めてヒト・レニンの全遺伝子解読に成功しました。まさに、「天は自らを助くるものを助く」という言葉を思い出さずにはいられません。

『君のやる気スイッチをONにする遺伝子の話』

村上和雄の新刊のご紹介です。この本には、鹿児島の県立高校で行われた村上の講演記録、高校生との質疑応答、講演後に高校生達が書いてくれた感想文が掲載されています。特に質疑応答の質問が、核心を突いた内容であることに感動します。そして、その感想文からは、これからの日本を担う若い人たちの心に、村上の思いが届いたことが確信できて、胸が熱くなりました。どんな世代の方にもおススメできる一冊です。

以下amazon書籍紹介~

内容紹介

遺伝子工学の世界的権威・村上和雄氏。本書は平成24年、鹿児島の高校で約1,000名の生徒たちを対象に行われた講演会を書籍化したものです。
難解と思われがちな生命科学や遺伝子の話ですが、独特のユーモアや身近な例を交えての講演に、生徒たちもグングン引き込まれていきます。そんな彼らの真剣さに呼応するように、自らの歩みを振り返る著者の話もまた熱を帯びていきます。
心の持ち方によって遺伝子の働きが変わる、利他的な遺伝子の存在、私たちの体を動かしている何十兆もの細胞の存在……。巻末には生徒たちのこんな感想が収録されています。
「村上先生のお話をきいて思ったのは、人間の可能性は無限大なんだということでした」 「才能のある人とない人の差は縮まらない。そう思っていましたが、実は眠っている遺伝子を起こして、才能を開花させるのは結局自分次第だということがわかり、嬉しかったです」

お子様、お孫様へのプレゼントにも、ぜひおすすめしたい一冊です。

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目次
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遺伝子が目覚めれば人生が変わる――講演

・学校の偏差値と優れた研究は必ずしも一致しない
・実の親から実の子へと受け継がれる遺伝子
・心の持ち方によって遺伝子の働きが変わ
・笑いと遺伝子のオン・オフのかかわりを研究する
・笑いが糖尿病患者の血糖値の上昇を抑制した
・笑いは副作用のない薬になるかもしれない
・どこの国の神話にも笑いが描かれている
・大ピンチのときにこそ笑いが大切になる
・ダライ・ラマ十四世との出会い
・六十三歳で大学を卒業、私の人生はこれからだ
・日本の誇りをかけて取り組んだイネの遺伝子暗号解読
・極微の空間に書き込まれた生物の遺伝子暗号
・遺伝子暗号を書いたのは目に見えないサムシング・グレート
・生きているということはそれだけですごいこと
・六十兆の細胞が互いに助け合って私たちの体を動かしている
・利己的な遺伝子だけでなく、利他的な遺伝子がある
・赤ちゃんは生物の三十八億年の歴史が生み出した最高傑作
・人間の年齢は宇宙生命で換算すると百三十七億歳
・「みんなちがって、みんないい」――自分と人を比較しない
・二十一世紀には日本人の時代が来る
・世界に称賛される日本のフォー・アザーズの伝統
・他人のために働くことが自分にとっての大きな幸せになる

村上先生と一問一答――質疑応答

・他人を気にしすぎると自己肯定力が落ちてしまう
・遺伝子と環境因子の相互作用で人格や行動が決まる
・遺伝子操作は慎重にも慎重を重ねて行わなければいけない
・科学の発見とは絶対的真理ではなく、真理に近づくプロセス
・ほがらかな気持ちが病気の発症を抑える

講演を聞いて――感想文