ノーベル生理学・医学賞 本庶佑氏の偉業 『致知』連載第十七回 より


「致知」連載第十七回・生命科学研究者からのメッセージは2018年ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学特別教授・本庶佑氏の研究にスポットを当て、がん免疫療法に寄せる期待と、「心と免疫の関係」について語りました。

本庶佑氏の研究をかいつまんで説明すると…

これまでのがん治療はがん細胞を攻撃することを中心に開発されていました。ところが、本庶氏が発見した免疫療法は、がん細胞そのものを攻撃するのではなく、がん細胞に出現するタンパク質(PD-L1)が、T細胞(病原体に感染した細胞を攻撃し破壊する)のブレーキ(PD-1)を踏み、免疫を抑制していることに注目したのです。

多くのがん細胞の表面には、T細胞にブレーキをかけるタンパク質が発現しており、T細胞ががんを攻撃しようとすると、がん細胞はT細胞の免疫反応にブレーキをかけて、逃れていることが明らかになりました。そこで本庶氏らはがん細胞より先にブレーキにくっつく人工的な抗体をつくり、がん細胞がT細胞のブレーキを踏めなくする方法「免疫チェックポイント阻害剤」を考案しました。そうすることでがん細胞に対するT細胞の免疫作用が抑制されず、がんが免疫反応から逃れることができなくなります。

現在、がん免疫療法では、本庶氏の研究を基に開発された治療薬「オプジーボ」をはじめとする「免疫チェックポイント阻害剤」が用いられていますが、効果が確認されている阻害剤でも、効く患者は二~三割と限定的であり、また、治療効果が表れる患者を事前に調べる方法も確立していません。

2020年4月京都大学大学院医学研究科附属 がん免疫総合研究センターが開設され本庶佑氏はセンター長に就任されました。この研究センターが、がん免疫研究・治療における諸課題を世界に先駆けて解決し、次世代がん免疫研究・治療を発展させることを期待しています。

こころと免疫との密接な関係

「がんが自然に治った」ということをよく聞きます。医師から言われた西洋医学の三大治療法(手術、放射線、抗がん剤)などを受けずに、自然にがん細胞が消失した例を耳にすることがあります。これは本当にそうなのでしょうか。

ここで大事なのは、自然に治るというのは、病気が発覚した時点の状態のまま、生活様式やこころのあり方を何も変えずにそのまま放っておいて治った、ということではありません。病気になった時、なぜ病気になったのか、自分の心の状態や身体の状態をきちんと正確に判断し、本来あるべき状態に戻す努力をした結果なのだと思います。

『がんが自然に治る生き方』の著者ケリー・ターナー氏は、余命宣告から「劇的な寛解」に至った人たちを調査研究し、彼らが共通で実践している九つを抽出しました。

①抜本的に食事を変える②治療法は自分で決める③直感に従う④ハーブとサプリメントの力を借りる⑤抑圧された感情を解き放つ⑥より前向きに生きる⑦周囲の人の支えを受け入れる⑧自分の魂と深く繋がる⑨どうしても生きたい理由を持つ

一つには食事、人間関係をはじめとする自分を取り巻く様々な環境を自ら変えているということです。二つ目は自分自身を内観して、自らの意志で行動するように変化しているということです。

治療者は自分であって、医療者はあくまでも補助。己のなすことは自分で決める。いかに生きるかいかに死すか(死生観)を考えることが大事なのだと思います。

私たちの脳は過去の経験や学習から答えを導こうとします。それは、あくまでも過去が反映しただけにすぎません。まだ真実でないこと(脳が勝手につくりだす未来)を真実と思い込んで恐れたりします。しかし、それよりも深刻なのは、恐れることによって自分がいま持っている力まで忘れてしまうことです。

私たちは生きる力を自分の中に備えています。未来は、自分自身で描けるということを常に忘れず、こころと免疫、そして身体は繋がっているということを信じることが大切なのではないでしょうか。