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スポーツで人の意識、社会の意識を変える『致知』6月号

撮影:山下武

「致知」 生命(いのち)のメッセージ 連載第102回目の対談は、陸上男子四百メートルハードルの日本記録保持者であり、オリンピックをはじめ数々の世界大会で活躍された為末大氏です。現役時代は「走る哲学者」の異名をとり、引退後も多彩な活動を続ける為末氏と村上和雄が、意識を変えることで人間の可能性が広がることについて語り合いました。対談の場は新豊洲Brilliaのランニングスタジアムです。一部をご紹介いたします。

村上 「現役を退かれた後も、会社の経営やテレビ出演、インターネットでの大学運営など、実に多才ですね。こちらの練習場も為末さんの会社が運営なさっていると伺いました。」

為末 「パラリンピック選手の義足を作る会社もやっていまして、障がいのある選手も、そうでない選手も、当たり前のように一緒に練習する風景を実現したくて、この練習場を立ち上げました。スポーツには人の意識を変える大きな力があると僕は思っています。現役を退いたアスリートの活動は様々ですが、僕はそうしたスポーツの力によって社会に何かを提供していきたいんです。」

「特に興味をもっているのは、マインドセット、簡単に言えば人の思い込みとか常識のことですけど、これが変わる瞬間です。例えば、義足を履いた幅跳びの選手がいるんですけど、健常人とほとんど変わらない記録になってきて、いずれ抜いてしまうと思うんです。そうした人間と道具との融合が当たり前になったら、世の中の常識やこれまで人が抱いてきた思い込みも大きく変わる気がするものですから、そんな新しい世界を、こういう施設を使いながらちょっと覗いてみたいんです」

「現役のころから、自分は本当はどこまでいけるのだろう、自分の限界を決めるのはなんだろうといつも考えていました。たぶん思い込みによって自分の能力にブレーキをかけている部分が大きいと思う・・・つまり思い込みとか、常識とか、自分が自分に貼っているレッテルに人間がすごく影響されているんじゃないか、というのを感じていました」

確かに多くの人は自分の心で自分の限界を勝手に決めているように思います。もし、その限界だという思い込みを外すことができれば、思いがけない力を発揮できるのかもしれません。

村上 「・・・僕は五十年前にアメリカに渡って研究活動をしたんですけど、給料は日本の十倍、教科書でしか知らない大先生に会えるという、大きな環境の変化によって遺伝子のスイッチがオンになったと思います。・・・科学には昼の科学と夜の科学があります。昼の科学は論理、理性、知性の世界。一方「ナイトサイエンス」と呼ばれる夜の科学は、感性、直観、インスピレーションで、こっちのほうが大きな仕事ができるんです。」

「ナイトサイエンス」は夜、お酒を飲んで語り合っているときにひらめく勘だそうです。そういう時は理性的なたがが外れ、常識という思い込みが消え、全く新しい発想が生まれることがあるようです。では、為末氏の陸上選手としてのスイッチを入れてくれたものとは何だったのでしょうか?

為末 「走るのはもともと早く、中学時代の百メートルのタイムは十秒六で、全国一でした。・・中学校の時の先生から、授業中にマンガを読んでいるのを見つかって、どうせ読むならと、陸上競技の運動を力学的に解説した本を渡されました。そこに書かれた、体が前に進む理屈がよく理解できて、それを自分で表現したいという思いが強くなったんです。・・・高校になって体の成長もタイムの伸びも止まってしまい、なんとか自分の工夫で勝てるものはないかと考えて、ハードルは運動能力以外のいろんな要素が絡んでくる複雑な競技なので、この世界だったらいけるんじゃないかと思って転向しました。」

為末氏はとても論理的な方だと感じました。これからのスポーツ選手はそれぞれのポテンシャルを最大限に生かすための分析力が必要なのだと感じました。それはもちろんスポーツ選手に限らず、誰でも、自分の持つ資源をよく知って、強みを生かすことが大事だと感じました。

ものごとを長く続ける秘訣について、

為末 「一番の源泉になったのが好奇心ですね。自分が本当はどこまでいけるのか、よくわからないまま終わるのが嫌で、.それを知りたいという欲求が大きかった。・・・競技成績も重要なんですけど、それとともに分からなかったことがわかるようになる喜びというのも、競技生活を続けていくうえではとても大切だと思います。」

村上 「それは科学の世界にも通じるお話ですね。アインシュタインは「あなたは天才ですね」と言われて、「いや、私は天才ではない。好奇心が強いだけだ」と答えていますが、知らないことを知りたいという欲求の大切さというのはいろんな分野に当てはまるわけですね」

為末 「何かを知るために夢中になること、そういう根源的な欲求に訴えかけることが重要で、そのためには日々何か工夫をしながら生きていくということが重要なのではないかと思います。長く陸上競技を続けてきて、最後は自分によってたつという覚悟を定められました。最後の五、六年はずっと一人で練習していたので、自分とは何か、自分はなぜこう思うんだろうかといったことをずっと考えていました。」

まさに哲学者、求道者のような姿だと感じます。

2020年の東京オリンピックに向けては、

為末 「スポーツの大きな役割って、マインドセットを変えることだと僕は思っています。東京オリンピックではかなりの選手が自己ベストを更新すると思うんですけど、そういう姿を見て、多くの人が自分にはここまでしかできないという思い込みを打開してほしい。そして世の中全体のマインドセットがよいほうに変わればいいという思いがあります。それは僕の応援するパラリンピックにも期待していることです。」

村上 「僕らはともすればメダルの数にとらわれてしまいがちですけれども、確かに為末さんがおっしゃるように、一過性の感動にとどめるのではなく、日本の未来に向けた転機にしていくことが大事だと思います」

東京オリンピックが、日本がもっと良い国に変わっていくための、エポックメイキングになってほしいと思いました。

 

最高の幸せは出逢いの中にある『致知』5月号

撮影:山下武

撮影:山下武

『致知』生命(いのち)のメッセージ 連載第101回目の対談は、世界を舞台に活躍するプリマドンナ・佐藤しのぶさんです。日本人でありながら、ヨーロッパの華やかな文化の粋ともいえるオペラの主役を歌われている佐藤しのぶさん。音楽一家のエリートかと思っていたのですが、意外にもお父様は銀行員でお母さまは主婦という、日本的なご家庭だったそうです。ではなぜ、文化の違いを乗り越えて、活躍することができたのでしょうか。対談の一部をご紹介いたします。

村上 「・・・オペラというのはヨーロッパ文化でしょう。そこに日本人である佐藤さんが活躍できるというのは、どんな秘訣があるのでしょうか」

佐藤 「・・・西洋人が生んだ西洋文化の華であるオペラに日本人が挑戦することは、決して簡単なことではありませんが、勤勉な日本人だからこそできることがあると考えました。言語も風習も違い、西洋の長い歴史と文化は私たちの価値観とは異なります。・・・しかし、違うからこそ、異文化を常に謙虚に注意深く検証し、努力することができると思いました。」

一人っ子で競争が苦手で、お父様からは「お前のことはよく知っているから言うけど、悪いことは言わない、おまえにオペラはむかないよ」とまで言われたそうですが

佐藤 「・・・でも、私はオペラに恋をしてしまいました。先生も、「惚れる」と遺伝子のスイッチがオンになると仰られていますね。私はまさか自分がヨーロッパに行ってオペラの主役を歌うなんて夢にも思っていませんでした。ただ、オペラってなんて素晴らしいんだろうという憧れと情熱だけでしたね。だから私にとってはヨーロッパで歌うことが頂点ではなくて、素晴らしい作品を歌うことができれば幸せでした」

「・・・日本人の私が苦労して歌わなくても、本場の人たちが歌えるわけでしょう。それなら私なんかいなくても全然構わないとよく考えます。でもその一方で、こうして生かされているからには、何か使命があるのだろうと、・・・少しでも世の中のお役に立てるよう自分を磨いていきたいなと思うんです。私、自分のためだけには頑張れないんです。・・・成功や名誉を意識した途端に、人間は本当に大切なものを失うように思います。エゴや、邪念に囚われたら終わりだ、みたいな。」

オペラに恋する!やはり「惚れる」ことはあらゆるものごとを成すための一番強い原動力なのですね。佐藤しのぶさんは素晴らしく成功されていて、とても華やかな方ですが、同時に日本人的な慎ましやかさや謙虚さをもっていらっしゃって、それがヨーロッパの方にも魅力的に映るのではないかと感じました。

佐藤 「先生のご本の中に細胞は他の細胞を助ける働きをするとありますね。それは音楽と似ていると思います。・・・ハーモニーというのは、私は音楽の世界だけでなく、人間同士が生きていくうえで大事なものだと思います。一人ひとりの考え方や思考は違っても、お互いを尊重し、力を合わせることで、想像を超える素晴らしいものを創っていくことができる。」

村上 「そのとおりですね。・・・心臓は心臓、肝臓は肝臓といったように形作られ、・・・最初からプログラムされている。しかし、心臓なら心臓、肝臓なら肝臓がそれぞれ別の働きをするためには、細胞同士が共生しなければうまくいきません。ぼくはそこに、他の細胞を助けなさいという利他の遺伝子の働きがあると思うんですよ。つまり細胞同士がハーモニーを持つためのプログラムもちゃんと書いてある。」

お二人の話から、音楽とは人間の根源的なものから生まれたものかもしれないと思いました。

村上 「・・・僕は最近になって日本人には使命があると感じることがよくあるんですが、佐藤さんは世界を見て来られて何か感じることはありますか」

佐藤 「私は、日本人は素晴らしい特性があるように感じます。・・・私たちが持っている温かさや寛容さこそ、世界の平和に貢献できるのではないかと思うんです」

村上 「・・・実際に西洋の科学技術や経済力といった理知的な面と、東洋の寛容な精神といった感性的な面を持ち合わせているのは、日本人だけですからね」

佐藤 「私が忘れられない「トスカ」の公演があります。この作品が大好きで何十回も聴かれたという外国人のお客様が、私の歌を聴いて、この作品で初めて泣いたと言われたのです。でも、どうして自分が泣いたのか分からないから私に教えてほしいと言われました。・・・もしかしたら私のヨーロッパ的ではない感受性の働きが伝わったからかもしれない、と・・・私が演じるヒロインは、皆、愛する男性のために自己犠牲を払う役目と決まっているのです。・・・オペラで愛する人のために命を捧げる女性が描かれているというのは、自己犠牲こそ、人間の行為の中でいちばん尊いことだからだと思うんです・・・その尊さを深いところで自然に感じ取って歌うことができるのは、もしかしたら私が日本人の魂を持っているからなのかもしれません」

村上 「この人のためなら死んでもいいという人に出逢えることは、ある意味その人にとって最高の幸せかもしれません。そしてそれは人だけではなく、仕事でも同じですね。この仕事のためなら死んでもいいと。」

「自己犠牲」という美徳はとても難しく、純化されたものでなくては美しいといえないものかもしれません。佐藤しのぶさんの演じるヒロインのお話から、古事記の、倭建命の妻、弟橘比売命が海に身を投げるエピソードを思い出してしまいました。佐藤しのぶさんの美しい歌を聴いてみたくなりました。

「祈力の充実」で幸せに生きる 『致知』4月号

「致知」 生命(いのち)のメッセージ 連載第100回の記念すべき対談は、村上和雄が人生最後の研究テーマと定めた「祈りと遺伝子」研究において多大なるご尽力をいただきました、横浜弘明寺住職、美松寛昭和尚です。美松和尚は本研究の主旨をご理解いただき、ご賛同いただいて、研究の場をご提供くださいました。宗教的な場において科学的研究をすることについては、批判的なご意見もあったようですが、惜しみなくご親切にご協力くださいました。おかげさまで「祈りと遺伝子」研究も、もう一息でその緒につくところまでたどり着くことができました。対談の一部をご紹介いたします。

村上「宗教と科学とは一見相交わらないように思われているかもしれませんが、私は表裏の関係にあって共通点はあると思うんですよ」

美松「人間の体の中には秘められたパワーがもっとある」「それを引き出すのが、私たち宗教者の役目ではないか」「難病と言われるものや精神的な病気にしても、人間にはそれに立ち向かっていける力が備わっていると思うんです」「研究によって祈りの力がはっきりすれば、もっと意識的に本来人間に備わっている力に、祈りの力をもって働きかけることで、人々を救うことができる」

弘明寺では八のつく日に「護摩行」が行われています。もう何度も参加させていただきましたが、お経と太鼓や鐘の音と、護摩壇の炎、お寺が持つ場の力が相まって、終わるととてもすっきりいたします。美松和尚の力強いお姿は、人々の祈りを大いなるものに届けてくれるように感じますし、力を与えてくれるように感じます。弘明寺は横浜最古のお寺で、千三百年も前に開山された歴史あるお寺ですが、「祈りの寺」というキャッチコピーを付けられたのは美松和尚だそうです。そこには「祈り」の力を信ずる強いメッセージが込められていると感じます。護摩行には誰でも自由に参加できるので、檀家さんだけではなく一般の方も数多くお祈りされています。

美松「御祈願の約七割が病気に関する悩みなんですよ。どうすれば僧侶の立場で、病気を患っている方々の苦しみを取り除くことができるかを考えるようになりました」

美松和尚は、昔、『白い巨塔』を読んで、医者に憧れたそうです。僧侶となって、多くの方の悩みが病気にあることを知って、日本ではお坊さんは死後の世界を扱うというのが一般的ですが、現世で病に苦しむ人たちのためにできることを研究しようと、「病苦研究会」を立ち上げ活動されています。

村上「いま私は八十一歳になりましたけど、原則として毎朝祈っているんですね。それが私のパワーになっている。私にとって祈りというのは日常生活に基づいているわけで、これは遺伝子と祈りの研究をするうえで大きかったと思いますね」

美松「心の及ぼす影響というのはすごく大きい。だからこそ、祈力を充実させることができれば、心の力を引き出すことができる」

村上「二十一世紀は宗教的なものと科学的なものとが融合する命の世紀になってほしい命の世紀をリードしていく使命が、日本人にはあると思うんです」

美松和尚という力強いサポーターとのご縁をいただき、心から感謝しております。村上ラボのメンバー一同、新年度も研究に頑張ってまいります!

【正論】⼤隅良典⽒の業績から⾒た「生と死」    筑波⼤学名誉教授・村上和雄2016.12.7 08:30

2016年のノーベル医学・生理学賞を受賞した東京⼯業⼤学栄誉教授、⼤隅良典⽒の授賞式が12⽉10%e6%ad%a3%e8%ab%96%e5%86%99%e7%9c%9f161207⽇に⾏われる。

21世紀に⼊ってからほぼ毎年のように⽇本⼈が受賞しており、しかも⼤隅⽒のケースは単独受賞である。ここでは⼤隅⽒の業績を生物の持つ共通の原理の⾯から考察する。

≪細胞⾃らが死を決定する≫

私たちは全く意識していないが、すべての細胞の中で、驚異的なスピードで正確に分⼦レベルでの化学(酵素)反応がおこなわれている。酵素は化学反応のスピードを数億倍にアップし、しかも反応相⼿を正確に認識する。したがって

⼩さな細胞の中で何千という反応が同時進⾏できる。実に⾒事である。

生化学者は、まずタンパク質、脂質、糖質などの⾼分⼦の合成反応のメカニズム解明に⼒を⼊れた。そして、合成に関与する酵素や遺伝⼦の研究で⼤きな成果を上げた。しかし、⾼分⼦の分解反応の解明は出遅れた。

古くから細胞の死として知られる「ネクローシス」(壊死(えし))は、やけど、毒物、打撲、溶解性ウイルス感染などによって突発的に起こる、いわば事故死のような細胞死である。

1972年に病理学者カーは、患部の病理標本を観察している途中で、ネクローシスとは形態的に全く違う奇妙な細胞死の過程があることに気付いた。  彼が⾒たのはネクローシスによる膨らんだ細胞ではなく、縮⼩し断⽚化された形態の細胞死であった。彼はこの現象を、細胞⾃らが死を決定し、ある

⼀定のプロセスを踏んで死が実⾏されていると考え、「アポトーシス」の概念を提唱した。

アポトーシス(apoptosis)とは、ギリシャ語で  “apo”  は「離れて」“ptosis”   は「落ちる」の意味で、カーは細胞の⼩⽚が死にゆく様⼦を、秋に枯れ葉が落ちる様⼦になぞらえたのである。

≪明らかにされたオートファジー≫

生物は、複雑な生体を形作り、生命を維持し、進化をするための戦略として、細胞⾃らが死ぬことができる機構を獲得した。この遺伝⼦によって制御された積極的な細胞死を「アポトーシス」と呼ぶ。

アポトーシスの機能としてよく知られるのは、ヒトの発生時に⼿足の指の間の⽔掻きのような細胞が死に、指が分離されて形成されることである。また、胎児における神経回路網の形成過程では、あらかじめ余分に神経細胞がつくられ、その中で、シナプスを形成できなかった細胞にアポトーシスが働き、取り除かれる。

これらは発生過程の中で画⼀的に起こるプログラム細胞死といえる。また、発生が終わった後も身体の中でアポトーシスは働く。遺伝⼦が傷つき、異常に増殖してしまう細胞はがんをつくるが、これらの多くは遺伝⼦の働きで⾃死し、除去される。

アポトーシスも多くの因⼦や遺伝⼦によって制御されていることが最近の研究によって分かり、その解明に貢献した欧⽶の3⼈にノーベル賞が与えられた。

⼤隅⽒はアポトーシスとは別に、酵⺟を用いて細胞外ではなく細胞内での分解系の研究でノーベル賞を受賞した。近年、脚光を浴びているオートファ ジーの研究であるが、実は30年以上も前にすでに顕微鏡で観察されていたにもかかわらず、その過程に関与する因⼦は⻑らく不明であった。オートとは

「⾃分」、ファジーは「⾷べる」という意味のギリシャ語で、⾃⾷作用のことである。

1993年、⼤隅⽒らはオートファジーに関連する遺伝⼦群を発⾒した。この研究を契機にして、オートファジーの役割の詳細が次々と明らかにされている。そして、酵⺟だけでなく植物、⿂類、哺乳類、⼈類などの全ての真核生物にオートファジーは普遍的に存在することが判明した。

≪変わりつつある病気への考え⽅≫

この研究が⼤きく発展するきっかけになったのは、オートファジーの遺伝⼦を⽋損するマウス(ノックアウトマウス)の作製である。このマウスを用いて、オートファジーは多くの病気に関係することが⾒いだされた。例えば、がん、アルツハイマー病やパーキンソン病の神経疾患、感染病などであ   る。

アルツハイマー病は、古くなった神経細胞に異常なタンパク質が蓄積することにより発症する。オートファジーを適切に制御できればアルツハイマー病の予防や治療につながると期待されている。

アポトーシスやオートファジーの研究の発展に伴い病気に対する考え⽅も⼤きく変わりつつある。すなわち病気とは細胞の増殖・分化・死のバランスが崩れてしまうこと、と理解されつつあるのだ。

細胞は生命活動に必要なタンパク質などの物質を絶えず合成するだけでなく、絶えず分解し続けるプログラムを遺伝⼦レベルでインプットされている。

生と死は対極にあるのではなく、生の中に誕生と死がペアで書きこまれている。

(筑波⼤学名誉教授・村上和雄   むらかみ    かずお)

以下産経ニュースの掲載URLです。

http://www.sankei.com/column/news/161207/clm1612070005-n1.html

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時計遺伝子に耳を傾けよ 「致知」11月号

時計遺伝子という言葉をご存知でしょうか?まだ世間では、あまり浸透していないのですが、この研究の第一人者である石田直理雄先生と村上和雄の対談が、「致知」11月号に掲載されました。かなり遅くなってしまったのですが(すみません( ;∀;))、この時計遺伝子関するお話がとても面白かったので、少しご紹介いたします。

生体にリズムがあることは昔から知られていましたが、最初の時計遺伝子がショウジョウバエで発見されたのは1971年のことです。真核生物はもちろん、現在ではほとんどの生物に時計遺伝子があることが分かっています。

時計遺伝子が睡眠に関係していることが2000年以降わかってきました。例えば世の中には4時間くらいの睡眠で十分の人がいますが、これは、時計遺伝子の配列がたった一個異なっているからということがわかってきました。別の配列の1個が異なると普通より長い睡眠が必要になります。

私が朝、弱いのは意志が弱いのではなく時計遺伝子に左右されている可能性がある…ということ!?

ノンレム睡眠は脳のための睡眠で、レム睡眠は筋肉の睡眠です。大人の睡眠はノンレムが90分来てその後にレムが90分と交互に来る。特にノンレム睡眠は完全に脳が休んだ状態なので地震が来てもすぐには起きられません。

来るならせめてレム睡眠の時に来て、地震…((+_+))

タニタが「スリープスキャン」というベッドの下に敷くだけで睡眠解析できる機械を作りました。これで調べると、必ずしも睡眠時間が長ければ睡眠点数がいいわけではなく、睡眠の深さ、レム睡眠とノンレム睡眠の規則正しい交代が影響している…。徹夜明けの睡眠や夕食抜きなどで睡眠の質が悪くなり、そのようなダメージが続くと時計遺伝子の発現がリズムが悪くなり、体内時計の老化が進む。

今疫学的に問題になっていることの一つに、フライトアテンダントに乳がんや肺がんが多いことがあります。その要因の一つが時差ボケで、時計遺伝子の発現に影響が及び、がんになりやすい体質を作っていると言われます。

戦後メタボリックシンドロームが増えた原因は食の西洋化と言われていたが、実はそうではなく、夜型社会化によるサーカディアンリズムのかく乱が原因です。

「睡眠は何のためにあるのか?」時間生物学者の答えは「脂肪を燃やすため」。時計遺伝子を壊してしまうと1個の内臓脂肪の大きさがどんどん大きくなるんです。

海外で、抗がん剤の投与時間を変えただけで5年生存率が飛躍的に上がったという実験結果が得られています。これは薬理時間学の分野の研究ですが、薬ごとにもっときちんとした投与方法を打ち出すことができればQOLや医療費削減につながるはずです。例えば術後の点滴を24時間から、ヒトの活動時間だけに変更することで術後の経過がとてもよくなることがわかりました。

石田直理雄先生は、現在、村上と同じ(公財)国際科学振興財団の、時間生物学研究所でご研究をされています。今後の研究成果が本当に楽しみです!

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PHP 1月号掲載 村上和雄 「心の持ち方で、いい遺伝子はオンになる」  

ちょっと抜き書きします、、、

「50年以上生命科学の現場にいます。この間科学技術は飛躍的な進歩をとげました。・・・進歩とは変化するということです。「科学的に正しい」と言われれば、反論できないと思うかもしれません。しかし、それはその時点での「正しい」であって、明日にはどう変わるかわからない。・・・『スーパーブレイン』(保育社)の翻訳を手がけましたが、脳は何歳になっても発達し続け、生涯現役だということがわかったとありました、・・・心や意識の持ち方で脳も遺伝子(の働き)も変わるのです。・・・他人と比較して一喜一憂するのではなく、今生きていることのありがたさに感謝する、それが幸せに生きる秘訣・・・」

PHPは皆さんもどこかで目にしたことがあるのではないでしょうか?小さくてお値段もお安く(205円!)、でも中身はとても濃くて心豊かになれる本です。久しぶりに手にして読んでみましたが、コスパ高いです。是非!

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「SWITCH」5周年記念上映会のお知らせ

2011年3月に完成し、同年の4月12日から自主上映会がスタートした『村上和雄ドキュメント「SWITCH」』。これまでに国内外累計400か所以上で上映され、約7万人を動員したそうです。現在も自主上映が各地で開催されていて、多くの皆様にこの映画のメッセージが届けられていることはとても素晴らしいと思います。

今回「SWITCH」5周年記念上映会が下記のとおり行われます。村上和雄も参加いたします!

【日時】 2016年7月9日(土) 10時半~16時半(予定)
「第一部」映画の上映&朗読
「第二部」音楽の調べ&出演者のトーク
10:30  開場
11:00  第一部 開演
13:00~ 休憩
13:50
13:50~ 第二部 開演
16:30
16:30  終演予定
【場所】 東京ウィメンズプラザホール ※地下鉄 表参道駅下車徒歩5分
【出演】  村上和雄博士、鈴木もも子、堤 江実、佃 良次郎、入江富美子(ビデオレター)、switch村上先生写真※ナビゲーター鈴木七沖
【参加費】 3000円(税込)
【主催】  『SWITCH』5周年記念実行委員会

ご参加のお申し込みは下記のURLからお願いいたします。

http://www.sunmark.co.jp/switch/event/

 

脳は生涯にわたり発達し続ける 産経新聞「正論」2014/9/26掲載

脳は生涯にわたり発達し続ける 筑波大学名誉教授・村上和雄
2014.9.26 05:02[正論]産経140926

黄金期を迎えつつある脳研究によって、私たちが従来教えられてきた脳に関する常識は、次々と破られてきた。

例えば、傷ついた脳が自然に治ることはないという通説は誤りで、脳神経細胞は環境に応じて再配線できる。

さらに運動、精神的活動、社会的なつながりが、神経細胞の発展を促すといった事実が判明した。従って、脳の働きは決して固定的なものではなく、作り替えが可能である。以前なら思いもよらなかったような驚異の治癒力が脳に備わっていることが分かった。

《脳の働きを制御するのは心》

脳から全身の細胞に指令が出ているから、脳は身体を動かすリーダーのように見えていた。しかし、決してそうではなかった。

脳を動かしているのは、自分の心であり、意識だ。脳はテレビやラジオの受信機のようなものであり、心や意識が真の創造者である。脳は私たちが「できる」と思っていることしかできない。逆にいえば、「できない」と考えていることはできないのだ。

このダイナミックでしなやかな脳の働きは、遺伝子の働きに関する最近の研究とよく符合する。

ヒトの全遺伝情報(ゲノム)の解読以前は、DNAは生命の設計図であり身体の働きを支配していると考えられていたが、事実は違っていた。

DNAは単なる設計図にすぎず、それも環境によって書き換え可能な設計図である。従って、生命はDNAに支配されていなかった。それでは、生命を支配しているのは脳か? そうではない。

脳は、前に述べたように情報の受信装置のようなものであり、受信装置そのものが歌ったり、考えたり、ドラマを制作したりするものではない。

真の制作者は、DNAや脳ではなく「人間の意識」であると考えざるを得ない。そして、生命の真の創造者は、人間の意識をも超えた大自然の偉大な働き「サムシング・グレート」だといえる。

《脳には無限の可能性がある》

心身医療の分野で世界のリーダーであるディーパック・チョプラ博士は、身体と心を統合的に癒やす独自の理論を展開して成果を上げている。彼は米誌タイムによる「20世紀の英雄と象徴100人」にも選出されている。

ごく最近、チョプラ博士と対談する機会があった。彼の考え方は、私どもが「心と遺伝子研究会」で10年にわたり研究し、発見した実験結果や考えに驚くほど近いことが分かり、今後、情報交換しようということになった。

博士の近著「スーパーブレイン」(ディーパック・チョプラ、ルドルフ・E・タンジ共著、保育社)の翻訳にも携わり、多くのことを学んだ。博士は次のように述べている。

慢性病は意識がつくり出している。怒りや恨みや憎しみなどの感情を持つと、それが悪い遺伝子を活発にしてしまい、ガンや心臓病の原因となる炎症を起こす。一方、喜びや愛、他人の成功を喜ぶという感情を持つと、良い遺伝子が活発になり、身体は病気にかかりにくくなって、肉体年齢も若返る。脳には心と身体と外界のバランスをとる自己制御装置があり、これを上手に使うことによって、素晴らしい人生を築くことができる-と。

脳に使われるのではなく、脳を上手にコントロールして使うことが肝心だ。そのためには、固定観念を捨て去り、柔軟性を持ってリラックスすること、素直であること、心配しないことなどが大切である。そうすることにより、あらゆる局面を切り開くことが可能になる。

身近なところでは、なかなかできないダイエット、振り払えない心の傷、仕方がないとあきらめていた体力の減退、脳の老化にかかる認知症や鬱病まで克服できる可能性がある。

《遺伝子のオンとオフで進化》

脳は現在も環境や心と相互に作用しながら進化を続けている。今や、ヒトの全遺伝情報(ゲノム)とチンパンジーのゲノムを比較することができるようになった。

そこで判明したのは、ヒトにはあるもののチンパンジーにはないという遺伝子は一つもないということだ。では、ヒトとチンパンジーのゲノムはどこが違うのか。それは、タンパク質をコードする配列ではなく、遺伝子のオンとオフに関与する配列にあった。

脳は固定的で、機械的で、確実に衰えていくものだと思われていた。しかし、実際の脳の姿は全く異なることが分かっている。この瞬間も私たちの脳は変化を続けており、新しい現実を生み出している。

人は心の持ちようを変えることによって、遺伝子のオンとオフを切り替えれば、一生涯進化できる可能性がある。

一般に、頭がいい人と悪い人がいるといわれているが、脳そのものにはいい、悪いの区別はない。使い方によって、良くなったり悪くなったりする。脳を上手に使えば、思いは必ず実現する。(むらかみ かずお)

(下記産経新聞のウェブページです)

http://sankei.jp.msn.com/science/news/140926/scn14092605020002-n1.htm

村上和雄 中外日報「提言」⑤

今日は中外日報「提言」⑤2014年6月4日掲載分(最終回)です。

朝夕秋の気配がしてまいりましたが、なにより今年は大雨の影響が深刻です。夏の夕立のような風流なものではなく、局地的に短時間に滝のように雨が降るというのは、私が小さいころには経験がありません。地球規模で気候もどんどん変わってきているようですね。

大きく変わる環境の中で人は変わらないものを求めているのかもしれません。

中外日報140604「提言」