『致知』連載第八回「伊勢神宮に見る日本の「食」の原点」


『致知』連載中の村上和雄「生命科学研究者からのメッセージ」。

二月号のテーマは「伊勢神宮に見る日本の「食」の原点」

 

長い研究人生において、二度にわたるコメの研究を通じて日本の食の原点と向き合ってきた村上和雄。その経験は伊勢神宮を訪れた時の感動によってさらなる学びへと繋がりました。

『・・・古来、日本人は食べ物について、自分たちの力で獲得したのではなく、神からの恵みとして与えられたものと考えてきました。神話の世界では、瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)が天孫降臨する際に、天照大御神から「稲穂の力で日本の国を平和に治めなさい」と告げられています。これは稲穂が最も尊い食べ物であることを示しており、日本はこの教え通りにコメを主食とすることで、今日に至るまで続いてきたと言えるでしょう。

一方、瓊瓊杵尊に稲穂を授けた天照大御神が祀られているのが、日本人の魂の故郷として信仰されてきた伊勢神宮です。伊勢神宮といえば、日本人の誰もが知っている有名な神社ですが、その信仰の原点が「食」にあることは、意外と知られていないようです。

伊勢神宮には、天照大御神を祀った皇大神宮(内宮)と豊受大御神を祀った豊受大神宮(外宮)とを中心に、百二十五もの神社が集まっています。その中にあって、外宮に祀られている豊受大御神は天照大御神の食事を司る神様であることから、外宮は「神様の台所」と呼ばれてきました。伊勢神宮では年間大小数百回もの祭が行われていますが、そのほとんどが「食」に関する神事なのです。

そして、神々の食卓を彩る食材は、すべてが地元の豊かな自然から取れた米、野菜に魚でまさに理想的な日本食と言えるでしょう。伊勢神宮では完全な自給自足、地産消のシステムを保ち続けてきました。こうした取り組みは、最も古い日本の食を伝えながらも、一方では未来へ続くサステナブル(持続可能)な食のあり方も示していると言えるかもしれません。伊勢周辺には古くから、「おかげさま」という言葉が根づいてきました。四季が巡る中で、ある時期が訪れると作物が実り、我われはその恵みを受け、ご飯が食べられる。そうやって健やかに平和に過ごせることを神様に感謝する心、それこそが「おかげさま」なのです。それは神への感謝であって、広くは大自然への感謝の気持ちが込められているのです。

イネは、日本人の精神や生活の根源となる特別な存在であり続けてきました。また、「イネ」という言葉のうち、「イ」は命、「ネ」は根っこ、であると言われ、イネにも魂があるとして「稲魂」という言葉もあるそうです。こうしたことから、イネによって培われてきたものが、いつしか私たち日本人の遺伝子にも組み込まれていったのかもしれません。私が日本の威信を賭けて「イネ全遺伝子解読プロジェクト」に全力投球できたのも、そういう目に見えない力に後押しされていたのではないかと、思うことがあるのです・・・』

コメは日本人にとって単なる食材ではなく、心・遺伝子・魂に繋がっているもの。でも、 日本人のコメの消費量は年々減少し、一方サプリメント市場はどんどん拡大しています。伊勢神宮では毎日朝夕、神様に食事をお供えします。その献立は、ご飯、水、塩が基本で、鰹節、魚、昆布、野菜や果物、清酒といったシンプルなものだそうです。こういう食事こそ日本人にとっては理想的な健康食ではないかと思いました。